私がお前を利用する

それは総理官邸のとある一室で、謎の男が総理大臣を叱責しているという奇妙な風景だった。
「なんだよあのスピーチは? えっ?」
「す、すまない」
「すまないじゃねーよ馬鹿野郎! てめぇ何年議員やってんだよ。くそ世襲がよぉ! フリガナ振らなきゃ漢字が読めねぇってどういうことだよ⁈」
「つい…その…」
「こっちは寝ずにスピーチ書いてんだぞ⁈ 俺アメリカ人だし、日本に来て10年経ってねぇっつうのに、お前がこんなに馬鹿だと思わなかったわ。とっとと解散選挙やれよ!」
「待ってくれ…せめてあと一年!議員年金を復活させてからにしてくれないか⁈ たのむ!この通りだ!」
「国民から金を巻き上げるために土下座するなんてお前は本当にクズだな。もういい…お前は用済みだ。すぐに新しい人間を用意することにする」
総理は床に擦り付けた顔を上げて啖呵をきった。
「私がただで転ぶと思うか?」
「なんだって?」
「いつまでもお前らに利用されるだけの私ではない!今度は私が利用する番だ!」
「とうとう頭がおかしくなったのか?」
「うるさい!今の会話は全て記録させてもらった! これを公開すればお前もただではいられまい!」
「クックック…」
「な、何がおかしいっ⁇ これでお前は…」
「お前は本当に何も知らないんだな。会話なんてずっと前から、お前が選挙に当選する以前から記録されているんだよ」
「なんだって⁈」
「国会、官邸、議員事務所、霞ヶ関にある官庁、この国にある全ての監視カメラ、スマートフォン…お前がその薄汚い顔を洗ってるときも、クソしてるときも全ての音声は記録されてんだよ」
「ええ⁈」
「コレクト・イット・オール。俺たちは全てを収集する。お前らに逃げ場なんてないんだよ。俺たちの書いた台本通りに演じろ。それができないなら代わりの人間をよこせ。分かったな?」
「あっ、ごめん聞いてなかったわ」
「なんで聞いてないんだよ!」
「もう一回再生すればいいだろ」

✳︎キーワード「政治家」のショートショートで見事に不採用
登場人物を二人にし、密室で繰り広げられる漫才のようにした。密室ということでスラングを交えた言葉づかいにしないと不自然だし、人間の本性を垣間見えるようなやりとりにした。
#ショートショート #小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?