多分、かぜ
「今日こそ告白しよう。今日こそ…」
A君はBちゃんに好意を寄せていた。ラブレターを書いてはみたものの、渡すタイミングを逃す日々が続き、ようやく帰り道に渡す決心をしたのだった。
「よし… 落ち着け。落ち着け。自分!」
Bちゃんは学校でも一人でいることが多く、帰り道も一人で帰っていた。A君にとってはそのクールな感じが魅力的に見えたし、寂しげな彼女を笑顔にしたいという衝動が彼を恋へと駆り立てたのだ。
「び、Bちゃん! あのさ…」
A君が意を決して話しかけるとBちゃんは足を止めて振り返った。サラサラとした髪が口にかかるのを指で直してから、彼女はA君を見つめた。
「い、いきなり呼び止めてゴメンね。 実はさ、前からBちゃんの事が気になってて…」
A君は爆発しそうな感情を抑えながらポケットから手紙を取り出した。
「これ… 読んでくれないかな? 受け取ってくれるだけでいいんだ」
彼女は訝しげに首を傾げながら、目の前に差し出された手紙を汗ばんだ手から受け取った。
「ダメなら返事はいらないから。じゃあ、また明日学校で!」
A君はそう言うと走って家まで帰った。夕飯の時は歯医者で麻酔を打たれたようにご飯をこぼしたし、Tシャツが後ろ前なのにも気付かずに、眠れない夜を過ごした。
次の日、勇気を振り絞って学校に行くとBちゃんは姿を現さなかった。
「あれ、おかしいな。まさか俺のせいで…」
A君は自分のせいでBちゃんが休んだのではないかと顔を青ざめたが、帰りに自分の下駄箱に淡いピンク色の手紙が入っているのを見つけてハッとした。誰にも見つからないように急いで手に取ると、自分の部屋まで一目散に走った。バタン!とドアを閉めて、震える手で手紙を開封した。
『私のことをずっと見ていてくれたのですね。一人じゃないんだって思いました。A君ありがとう。とても嬉しかったです。』
「これは付き合ってくれるってことだよねっ⁉︎ やった!やった!」
A君は身体中にほとばしる電気を放電するように、ベッドの上で飛び跳ねて喜んだ。
しかし、翌日も、その翌日になってもBちゃんは学校に来なかった。体調でも崩したのかと思い、A君は職員室まで行って先生に訪ねた。
「あの、先生。Bちゃんが最近学校に来てませんがどうかしたんですか?」
先生はペンを止めてA君の方を見た。
「Bちゃん? 誰だそれ? そんな生徒いないぞ?」
A君の初恋は終わった。
✳︎わりと初恋相手が引っ越すとか遠距離恋愛になるという話は多いと思うんだけど、片思いってインプットとアウトプットのバランスが崩れることだと思うんですよ。端的に言えば「承認欲求が満たされない」っていうことなんですけど。
幽霊を信じるか信じないかは人それぞれだと思いますが、仮に自分が幽霊だとしたらこれほど承認欲求が満たされない存在ってないと思うんです。だって、誰の目にも映らないわけですから。その証拠に陰湿なイジメで無視をされることが辛くて死にたくなる人がたくさんいますからね。私はハッピーエンドな話を書くのが苦手なんですけど、男の子が幽霊に恋をして告白した瞬間に救われるっていう話はありだと思って書きました。
タイトルに悩みましたが、イヤフォンから流れてきたサカナクションの「多分、かぜ」を聴いてこれでいいや!と名付けました。感情と命の流動感とジャストフィットしました。
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