「ナース日誌」
先日、新人研修の終わりに小山先輩に呼び止められた。小山先輩はリップグロスだけでも鮮やかな唇をしている色白の美人だった。
「ねぇ、知ってる? 4時44分に誰もいない部屋からナースコールが聞こえるって話」
「えっ、初耳です。やっぱり病院ってそういう事があるんですか…?」と、私は恐怖半分、好奇心半分で聞き返した。
「実はそれって、新人をからかうための通過儀礼なのよ」
「そ、そうなんですか? でも、何でその事を教えてくれたんですか? ネタバレじゃないですか」
「私が新人だった時に、脅かされた拍子に尻餅ついて尾骶骨を骨折した事があってね。研修を受けてる時のあなたを見てたら自分と同じタイプなんじゃないかと思って。この事は皆んなには内緒よ」
私は知らないフリをして初めての夜勤のシフトに臨んだ。案の定、先輩の言った通りの展開になった。
全く動じなかった私を見た看護師長の大山さんに「あなた肝が座ってるわね。全く驚かないなんて」と言われ
「実は小山先輩に教えてもらったんです」と全てを話した。
「小山ってあの色白の? 小山優子?」
「そうですけど…」
「嘘よ…だって、小山はもう何年も前に亡くなってるもの。冗談はよして!」
「嘘じゃありません!」
現場の全員が凍りついた。
そこへハゲヅラに白鳥パンツのプリマドンナ姿の小山先輩が現れーー
「生きてるっつーの!!」
(一同大爆笑)
この職場には命を扱う現場だからこそ笑いが必要だという哲学があり、年末の忘年会には婚期を逃した大山小山の抱腹絶倒の漫才が繰り広げられた。それを見て「ここへ来て良かった」と思う私なのであった。
#小説 #ショートショート
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