砂漠に降った雨
(オマーン旅行記1)
灼熱42度、ニズワという観光地から首都マスカットへの帰り道には、乗り合いのタクシーを利用した。マスカットまで所要2時間、2.5リヤル(約750円)とのこと。
乗客は既にもう2人いて、バングラデシュからの出稼ぎで役所に書類を出しに行った帰りという青年と、英語を話さないためか無口のパキスタン系の中年男性が車の傍らで待っていた。3人目の乗客としてその輪に加わった。
出発するにはあとひとり必要なようで、だが辺りを見回しても人がいない。そもそも、こんな暑い午後の時間に出歩く一般人などいようもない。
そこで運転手は各乗客に値上げ交渉を始めた。3.5リヤルとのこと。どうやら1運転10リヤルの売上が欲しいらしい。もちろん反感が生まれた。
隣にいたバングラデシュ青年と運転手のやりとりは次第に熱を帯び、ツバが飛び、額に汗、シャツに脇汗、やがて感情が剥き出はじめた。至近で見ているこちらは汗が引いた。運転手がつむじを曲げてしまったら困る。考えた。
「OK! I pay 5!!」
と、提案してみた。
その場にいた全員が一様に「?」の顔でこちらを見たので、
「Yes, I pay 5. OK?」
と、もう一度言ってみた。
そうして、ほどなく出発となった。
給油に寄ったスタンドで、運転手が僕にだけジュースを買って来てくれた。再び出発すると間もなく雨が降り出した。10分ほどの短い雨だったが、運転手は笑顔だった。その後バングラ青年が先に降りた際には謝意と共に堅い握手を求められた。
冷房が効きラジオのアラビアン歌謡の音色が響く車内、ジュースを一口。助手席から目の前に広がるオマーンの岩山がちな荒野の中にたまに現れる巨大なモスクをぼんやり眺めながら、お金持ちという人たちはいつもああやって問題を解決するものなのかと考えた。
ちょっとお金持ちになってみたくなった。
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