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ファゴットの祖先「ドゥルツィアン」


今回はファゴットの祖先とされるドゥルツィアンについて紹介する。

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ご覧の通り、長い楽器に金属のボーカル(クネっとしたやつ)、ダブルリードというファゴットを想像するに硬くない見た目だ。ファゴットは二本の管が束ねられていることから「薪束」を意味する「ファゴット」という名前になったという話だが、このドゥルツィアンの木は一本だ。しかし、管体の中にはファゴットと同じように二本の管が通っており、ボーカルから入った行きは一度下に到達し、もう一つの管を通って上のベルまで到達する。その点も中身はファゴットそのものだ。

先程、ベルと書いたが、ファゴットと違ってベル部分は短い。実際、ドゥルツィアンの最低音はファゴットよりも一音高い。現在のファゴットの最低音はシ♭だが、ドゥルツィアンはドまでだ。しかもこのベルはラッパのように広がっている。それだけにファゴットとは違う、開放的でよりはっきりした音色が出る。

ここで、一本の動画を紹介。現在、日本の古楽界(古楽とは作曲家当時の楽器で当時の演奏法を追求して演奏する分野)のファゴット奏者として有名な鈴木禎氏が解説とともに音も聞かせてくれています。

鈴木氏は私が国立音大にいた頃にとてもお世話になった先輩で、私が古楽に興味を持ったのも、演奏法などについて考えるようになったのも彼のおかげだ。

そんな日本の古楽ファゴットのスペシャリスト鈴木氏の音でお分かりのとおり、かなりビリビリした音だ。ベルの付け替えも動画の中で見せてくれているが、ミュートのようなベルを付け替えた後の音の方が柔らかく溶け込む感じがする。

キーは表と裏に一つずつ。つまり二つしかキーがなく、あとは穴だけ。リコーダーで穴を半分開けるというのがあったが、それと同じように微妙にずらしたり、または息の具合で音程を変えて吹くそうだ。ちなみに私は吹いたことは一度だけ、師であるアッツォリーニに試しに吹かせてもらった時だけなので実際どんな演奏法なのかはわからない。

このドゥルツィアンももちろん様々な呼び方がある。英語では"curtal"(カータル)、ドイツ語では"Dulzian"(ドゥルツィアン)、スペイン語では"bajón"(バホン)、フランス語では"douçaine"(ドゥセーヌ)などと幅広い。正直、これに関してはどの呼び名も全く定着していない。私はドイツ語圏で勉強したことから、この楽器は「ドゥルツィアン」として頭に入っているのでこの呼び名で書き続けることにする。

ではバロックファゴットと見た目がどう違うのか?前述の師アッツォリーニがたまたまレッスンの時に持ってきたバロックファゴットとドゥルツィアンを写真に撮ったものがあったのでご覧ください。

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右がバロックファゴット、左がドゥルツィアン。ドゥルツィアンは主に16世紀〜17世紀に活躍し、17世紀にバロックファゴットができてからは主導権を握られた感じだ。

キーもご覧の通り、バロックファゴットの方が多い。現代のファゴットからバロックファゴットを見るとキーが少ないというイメージがあるが、ドゥルツィアンからバロックファゴットを見るとキーが多いと感じるのが面白いところ。しかし、これが本来の流れだ。

ちなみにファゴットを片付けていると、「そんなに分解できるんですね」とお声を頂くが、それはバロックファゴットも同じだ。しかし、ドゥルツィアンは前述した通り、木が一本なので分解できない。アッツォリーニはこれをなんの袋にも入れずに裸のまま飛行機で運んできたという。空港職員や客室乗務員などに注意されるたびに「これは切ることができないからしょうがないんだ」と言って押し通したそうだ(笑)。せめて袋に入れたらいいと思ったのだが、そのままの方がみんな得体の知れない楽器だと思って大事に扱ってくれるかも知れないと思った。

さて、ドゥルツィアンは様々な音域の楽器があった。さながらサックスのようだ。現代のファゴットと同じ音域なのはバスドゥルツィアン、コントラファゴットにあたるのはコントラバスドゥルツィアン。その上にはアルトとテナーがあり、その四重奏の動画があったので紹介する。短い動画なのでぜひご一聴ください。なんとも言えない響きだ。

最後に教会の天使がドゥルツィアンを吹いていたのが見えただろうか?

ドゥルツィアンは主にルネッサンス期に演奏された楽器だ。ルネッサンスの音楽は民族的な響きもあって非常に面白いと私は感じる。ドゥルツィアンもそのルネッサンス音楽に色彩を加える重要な楽器だった。

ドゥルツィアンのために書かれたとされるソロ曲で今も演奏される曲にべデッカーという作曲家のソナタがある。

ここでご興味ある方は現代ファゴットの演奏とドゥルツィアンの演奏を聴き比べて欲しい。その音や流れは全く違う。もちろん、現代ファゴットの方が芯があって明確な音並びで洗練されているのだが、私はドゥルツィアンの少し調子っぱずれで開放的な響きも好きだ。皆さんはどう思われるだろうか。

現代ファゴット演奏↓


ドゥルツィアン演奏↓

いかがでしたでしょうか?

ファゴットの先祖と言われるドゥルツィアンの紹介でした。実は私は上記のべデッカーを演奏するときはベルを外します。それだけで現代ファゴットを吹いていながらドゥルツィアンの雰囲気が出るのです。とは言ってもやはり本物の楽器を名手が吹くとなんとも言えない心地良さが出ます。

ぜひ今度、古楽の演奏会にも足をお運びください。そこでベルの短いファゴットのような楽器を見かけたらこの記事を思い出してください。そして、ドゥルツィアンの魅力を周りの方にお伝えください。

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蛯澤亮
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