姫様のワガママな心変わり
うつくしいものが好き。私が美しいから。こうでないと、私の美しさがもったいない。釣り合いがとれないでしょう?
姫様はそのように考えていて、傲慢でした。しかし海の蝶々のような可憐な人魚姫、それでよかったのです。誰もが文句を言わないしそのとおりですと姫様を讃えます。
人魚姫はすっかり気をよくして、自分自身を盲目的に愛していました。
ある夜のこと、船が難破する。船に積まれた人間も貨物も動物もばらばらに海に散らばってゆく、そのなかで人魚姫は美しいものが落ちてると気づいた。気づいたらそれの頬に手をかけて、身体を掻きいだいて、陸地の生物が住める砂のうえにまでそれを運んであげた。それは、人間の男の子。
助けたあとで岩陰に隠れてうかがい、それが王子様と呼ばれる人間の王族であると知りました。王子様の周りは大騒ぎの村人が囲んでゆく。人魚姫の歓喜は姫たちの踊りで一番を飾ったときのそれを上回りました。あの美しい人間、私が助けたあの人間、アレは私のものに間違いないのだわ!
早速、王子様にふさわしい美しさを見せてあげるために、人魚姫はこっそりとワカメの森に棲む魔女を訪れました。人間にしてください。人間に恋をしたものだから。
ところが、魔女は、不機嫌に失笑して、人魚姫の、人魚姫にすると受けて当然の要望を断ります。なぜですか、醜き魔女よ!
人魚姫の問に、魔女が答えます。
「アンタは美しくないからさ。難破船から王子様を助けたぁ? アンタ、王子様のほかは皆ぃんな見捨てたねぇ。海の掃除屋たちは今もずっと死骸を駆除しては喰ってて大忙しさ。アンタみてぇな性根の醜い女に授けてやる魔法なんてないのだよ」
人魚姫は絶句してこの世の者とはおもえぬ眼差しで魔女を見据えました。
ここが、人魚姫の城であるなら、無礼者として首を切り落とすよう、命令をしたでしょう。しかし同時になにやらスウと腑が落ちて人魚姫は奇妙に納得するのでした。永遠に若くてうつくしい人魚姫。何も欠点をもたない自分と信じていたが、人魚姫はそれってでも生きている感じがしないわねと兼ねてから不安にも感じていたから。
人魚姫は、驚いたまなこで海の魔女を見据えて睨んだまま「そう」とだけ答えた。そして魔女の棲家から泳ぎ去った。
この話はここで終わり。人魚たちの王族は穏やかに、その後も存続しました。陸地では王子様も亡き人たちをともに弔ってくれた修道女に恋などしました。
穏やかに、穏やかに、おだやかに。
この話はここでおしまい。何も変わったことない、何も起きない話です。それからの人魚姫は、海に咲く花を思わせる、甘酸っぱい香りがする美女であったそうです。
END.
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