永生き(ながいき)のリカちゃん、恋をしない
リカちゃんは産まれつき、死なない運命を背負うことになった。ここは人魚を食った者たちの集落であって、死なず者たちの里であった。
ここでは、恋は、ない。
出産はあるが、無責任であると、歓迎はされていなかった。里の者が増えること自体、里の者たちは嫌うのだ。いつかこの場所が外に知られれば自分たちが食われるからだった。
リカは、里でいちばん若いが、100歳を超えてやっと人間でいうところの5歳くらいの見た目に育った。死なないから新陳代謝などないから、者によって外見はまちまちである。骨と皮のガイコツ姿で元気に過ごす者もいる。
リカは、しかし、母と父などとっくに恋愛関係ではなくなって、家族ですらなくなっているが、永らく恋愛とやらに憧れていた。
なにせ、自分はそうして産まれたのだから。
人魚の肉やら不老不死やら関係なく、ただここに産まれただけ、たまたま、ここにいるだけ、ふつうの女の子であったから。
ところが、リカちゃんに興味を抱く者は、いなかった。リカちゃんが淡い気持ちを抱いても、相手はまるきり相手にしない。リカちゃんが子どもすぎるから。興味がないから。長生きしすぎて何事にも感情を失っているから。
たまに、交尾をする、男女はいる。暇つぶしみたいにして。
リカちゃんは、ああして私は産まれたのね、と、寂しくなる。
この気持ちが恋なのかしら。
それとも、生物的な、発情なのかしら。
悲しいリカちゃんは、恋ができず、恋を知らない少女であった。
永遠の、少女であった。
死なず、不老のかんぺきなる少女。
外の世界では宝石よりも貴重であるが、ここでは、石ころよりも価値がない。恋をしたがる、女の子なんて。
リカちゃんは、初恋すら、できずに1000歳になってゆき、そのころには人類も戦争で絶滅してゆき、他の動物が地球に増えてきて、リカちゃんが『少女』であることすら理解できるモノがいなくなっていた。
リカちゃんは、だから、少女のままである。
永遠に、かんぺきな、比類なき少女である。
もはや、ナニモノにも、リカちゃん自身にすら、その価値はわからないものとなってしまった。
リカちゃんは、さすがに恋は諦めた。
初恋もなく、あきらめた。なにせ相手もいないし世界は沈むし中身はもはや少女ですらないバケモノなのだから。
それに気がついた、ここは死なずモノの隠れ里なんかではなくて。
たんなる、座敷牢にすぎないって。
END.
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