水色のともだち

「てがた」

見たままをハルカが呟いた。

海に面する、ハルカの部屋の窓に、今日も濡れた手がペタペタと触ったあとがある。指の間に蜘蛛の糸のようなひらたい線があって、その手はハルカのものより3倍は大きかった。

ハルカはまだ幼い。ハルカの父よりも大きな手のひらだ。窓のそとのそれらは。手は窓を覆うようにしてハンコを押したみたいにたくさんあった。

朝日に透かしてみると、やや水色がかっているのがわかる。

きっと手の持ち主は水色で、カエルみたいに粘っこい素肌をしているんだろう。ハルカは絵本で読んでいるから、そういうセカイがあるのを知っている。これは、おとぎ話に通じる扉のような、通行証のような、手形だった。

初めて手形に気づいたとき、ハルカは、だから驚きはしても怖がらなかった。いつかここから誰かが自分を連れ出してくれる、そんな虹色をした夢まで心に描いた。

正体不明の水色手形に、窓の内側から、ハルカは手のひらをかさねた。

「……はやく遊びにきてね!」

どこの誰だか、人間だかもわからない、深夜に窓をベタベタに這い回るその知らないやつにハルカは笑いかけた。

きっと今夜も来るだろう。ハルカの秘密のともだち。

しかしながらここは、現実であって、ハルカの期待しているおとぎ話の世界ではなかった。だから窓から不法侵入しようとしている何者かのことを、その後、襲撃から生き延びたハルカは永遠に憎むことになる。現実の世界は非情で過酷なもの。


END.

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