酸っぱいウチの話は

ちっちゃな幸せを酸っぱいものに思えるようになった。大人になったから、それとも大人になったからこそ子どもっぽくなったのか? その男に答えは出せなかった。

恵まれている、そうとは思う。
結婚相手に出会えた。ネットお見合いサイトとはいえ、披露宴をあげられた。晴れ姿を親に見せた。妻にした女は子どもを産み、今は気づけばその幼女も高校生になっている。

そして、おれとはくちをきかない。

酸っぱい幸せになったもの。幸せなのかもしれないが酸化してるし腐ってるような匂いもする。妻が生意気なせいか、娘もこんなになってしまった。男はおれの知らないうちに家庭崩壊している事実に、定年を迎えた今、直面してしまった。それまでは仕事をするだけでよかったのに。今は、おれの金で買ったマンションのはずが、肩身がせまくて居所がない。そう嘆く。

嘆くことができる相手も、いつしか、こんなにも少なくなった。
同僚や友人は生きていても泡のようで消えかけて見える。朧げで遠くに感じる。おれの声は誰にも届かないらしい。

妻のせいか。
娘のせいか。
適当な結婚相手を選んだせいか。
見合い結婚が悪かったのか。

酸っぱいブドウになった、この平凡なはずの家庭はおそらくおれを蝕んでいる。病ませている。ため息が増えた。

ウチが酸っぱいのはおれのせいか?
ウチだけ、嫁だけ、娘だけ、変わり者なのか?

酸っぱさが目にまで染みて、おれは、自分を哀れんで涙した。こんな年齢の男がこんな理由で泣くなんて。みじめな話だ。

誰だ、自分の行いはやがて自分に戻ってくるとか、抜かすやつは。殴るぞ。
おれは、離婚を考えてあるが、ただ問題は、おれの夕食やら洗濯やらあれこれは、誰がやんのだ、って問題だった。


END.

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