解体ラブスト2-44
「……ッてェ!! なぁんにも変わらなかっただけじゃーないですか!!!!!!!!」
「はい、ほうじ茶。あれもう流行り終わってる?」
会社の昼休憩。さっき、数時間前に、私を無視するかたちで置き去りにしてどこかへ帰って行った男性は、同じ月曜日のお昼休みにのうのうと顔を出して服も冬に着替えて髪の毛までセットし終えて、たぶんシャワーも浴びたのだろう、以前のようなモデルじみたハデな男性に戻っていた。ルビーとライム色の宝石ピアスがスウェット着とちがって映える。
ペットボトルを古い鉄台に置きながら、自分はどこぞのカフェで買ってきたのか、持ち手つきのドリンクを片手にしている。
「いや変わってるけど」
「どこがどうですか!?!? 遅刻しましたよおかげさまで!?」
「あ、なにー? 沙耶ちゃんもしかして今生の別れだとでも思ったのか。えー、ショック受けちゃったとか?」
「し、て、ま、せ、……なんですかこれは」
「肉。沙耶ちゃんにお土産。差し入れ? サンドイッチに挟まれた肉。ふつーにカフェのだから美味しいんじゃない」
「……海老カツサンド……」
なんなの。なんなの。まじで本気でなんなのこれ。なんだこれ。
しーさんは、パイプ椅子を広げて、自分の分の食事を広げる。勝手に許可もなく。
「やー。俺の持ち店売っぱらって時間確保してたからさ。帰るなら急いで処理することが多くってさ、ごめんね今朝は急いじゃってて。まぁすぐ会えるしと思ったんだけど……」
しーさんが、まじまじ、眺めてくる。
私は口角が引きつる。眉も寄る。コイツこのやろう。海老カツサンドイッチは開けるけど。
「……寂しくなっちゃってた?」
「なってません!!」
そーお? など、ニュアンスをつけて、しーさんが笑って歯を覗かせる。こいつ。コイツこのやろう。
でも、私のお弁当は、まだ、昨日のうちにしーさんが準備した、しーさんが作ったお弁当なのだった。
(……コイツこのやろう)
あ、なんか、野菜中心でゆで卵がない。卵焼きもない。海老カツサンド買うまでワザとではないか。このやろう。
「まぁ、」
ふ、笑いながら、しーさんは、以前の私たちには無かった馴れ馴れしさを露骨に前面に押し出しながら、私の肩に顔を寄せる。
「仲良くしよーよ。今度こそ。夫婦なんだしさ♥」
「……別居までしたんなら離婚も秒読みですよ」
「受理させない♥♥」
「ぜんぶ嘘だったなら仕事がたまっているのではないですか」
「沙耶ちゃんには会いに来るよ命がけの愛を見てな、沙耶ちゃん♥♥♥」
「かえれ……」
うめき、サンドイッチをあむり、先っぽからくちにした。
結局、結局は、白紙の状態に戻っただけ。なんだこいつこの男。この男。
睨みながら、アレコレと話しかけてくるしーさんをウザイなと思って。しばらくして思い出した。
「あ、おやつにどんぐりのクッキー持ってきてますけど。今日は。この前のやつの残りですけどね。食べます?」
「…………」
しーさんが、気配を変えた。一瞬だったけれど。眼を開けて固まる。
すぐに、「うん」と頷き、私がリュックから出したタッパーに手を伸ばした。サクリと音をさせてこれまたすぐ齧る。
焼き方をサクサク食感に変えてあるやつ、今回のは。
二人で食べたら、残りものはあっという間に食べ終わる。タッパーの蓋を締めた。
「……また焼くの」
「そりゃ焼きますけど」
「……俺の分量を増やしたやつのまんまで焼くの、そのレシピって」
「はぁ。……昼休みに押しかけられるんじゃ、そうなるしかないですかね」
そっか、特に顔色は変えなかったけれど、弾んだ声が聞こえた。きっと前の私なら聞き分けられなかったくらいの返事。
……前の私なら、そう。
……前の私なら。
(……………………)
モヤ、とする。だから。素直に言うことにした。
「なんだかムカついてきます」
「えっ。返事しただけで」
「はい」
即答はする。もちろん。ムカついたから。
END.
読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。