怪奇なる出題と、来客の話(たんぺん怪談)

家に呼び出しがきてでれば、見知った顔ではあるが、約束などがない人間がインターホンの画面越しに立っているのが見えた。

さて、呼び出しに答えて、出るか?

出ず、無視をするか?

アタリは出た。

女なら違ったかもしれない。見知った相手だろうとも、いきなりの事前約束なしの訪問は、困りごとが多い。化粧やら自宅の掃除やら、ちからがないから防犯の面からも最適ではないから。

アタリは一般男性とも呼べるほど、特徴はなく平凡凡庸とさえ言えるが、しかし男性である。
であるから、呼び出しに答えて出た。

自分のからだを回答として差し出した。呼び鈴を押した相手に対しての回答だ。

そこから、頭を丸かじりにされた。

妖怪は人間を模倣して今も生きている。化けている連中だったのだ。
あるいは、妖怪の如き人間は、言葉巧みに相手を誘導してそちらの方面へと引きずり込もうとする。詐欺師、勧誘、なにかの犯罪。

どちらもさして変わりはなかった。妖怪怪異だろうとも、詐欺師の類であろうとも。

ただ、アタリは、回答として自分を出した。
出題者は、そんな、人間を望んでいた。家にある呼び出しボタンを押すだけでその出題は果たされる。

あとは、アンデルセン童話のようにはまったく美しくなく生活感たっぷりの自宅を残して、居住者のみが、泡と消えるだけ。痕跡はたっぷりあるのに消えるだけ。さようなら。

残される者は、親や兄弟であった。
何が起きたか、誰にもわからない。

ただ、安岡アタリという人間は、消えた。
真実はあっけなくいつも結果だけを残してなにも伝言せずに闇に紛れて消えてゆく。現代社会でも原始社会でも、おとぎ話だってアンデルセン童話でだって、真実は消えゆくものである。

消えた。それだけが、回答を超えて、最後に残る『真実』だった。


END.

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