腐肉の宝もの

宝物だ、と男は信じた。腐ってはいるが七色にかがやく、拳大のウロコを思わせる腐肉。この地では古来より人魚伝説なるものが伝わっている。

コレだ、コレだ、腐ってぐにぐにげちゅげちゅの腐肉を両手につかんで男はハァハァあえぐ。なにせ、人魚伝説の肉なら、万病を治せるしそれに永遠の命が手に入るのだ。

異臭と刺激臭で目からよだれがでて、くちからは泡を吹きながら、狂ったように浜辺を駆け抜けて男は帰宅した。腐肉を大事に、迷った末に箱にしまった。ダンボールの箱に。

もし、まちがっても、誰もが気づかない場所だろう。家に転がっている、野菜を無造作に入れていただけのダンボール箱。ここに宝物が入ってるなんて思うまい。

男は興奮で眠れずにいた。しかし、やがて、興奮しすぎてがくんと意識が落ちた。朝日を浴びながら布団のなかで男が飛び上がる。

腐臭。腐肉! あの独特な強烈なニオイが、しない。しない。しない!!

ダンボールを開けると、腐肉はいなくなっていた。
男は叫んだ。村のあちこちで叫んだ。誰ダァーッ!! 返せーッ!!

断末魔のような叫びが、やまびこに交じる。

そのころ、腐肉は肉なりに、モニュモニュと蠢いて歩き、海に帰ろうとしていた。もにもにもにもに。

腐肉、宝物にされたけれど、宝もの、宝者でもあった。
永遠の命の持ち主の肉なのである。

腐肉ですら『生きていた』。
やまびこが、狂った悲鳴が、山にこだまする。海は、しずかに波を立てていた。


END.

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