ニンギョグルメラー

「各地のニンギョを食べ比べしているんだよ。うっかりと最初に食っちまってね、皆そんときに食アタリで死んじまったけど俺だけ無事でね、人魚の肉って本当に不老不死になれるやつはなるようだよ。俺何歳に見える? ははは。なんて。面倒くさいおやじみたいな質問でゴメンな。まあ何歳でもいいさ。つうわけだよ、俺がここで漁師やってる理由はさ。ニンギョヒメの食い歩き、なんなら同行するかい? 始めに、ニンギョを食ってみて食アタリしないか実験しなきゃならんけど、俺が気になるってんならとことんまで、悠久まで一緒に居られるよ。約束しよう」

「…………」

観堂家の末娘はそろそろ危機感を覚えていた。飢饉が続いている。金もない。そろそろ売り飛ばすか食われるか、自分の身を失うところと自覚があった。

細い女の身であるから、のぶとい漁師達にわたしを連れて行ってと頼む訳にもいかない。

でも、連日のように漁場を眺めていて、自分と同じくらいの背丈の細身の少年に気がついた。彼に話しかけた。それから、いくつの晩を過ぎた夜だろうか、彼はいざなった。

「……本当に、約束してくれる?」

「食アタリしなかったら」

「しない。ゲテモノ食いは自信ある。ニンギョヒメいうやつ持ってきて。食べるから」

少年は、夜の帳にまぎれながら笑う。笑う気配で笑ってみせた。漁場は閉められて、各々の小屋に皆もう引き払っている。

波の音に耳を済ませて、カラの漁場に座り込んで海を見ている少女少年は恋人同士のようだった。けれど。

……これから、命を賭ける、のだ。

「死んでも知らねぇぞ?」

「どんと、こい、よ」

少女は、虚勢をはった。

はるしかない。死ぬか、生きるか、それしかないんだから。


END.

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