ぷち詐欺師のリンゴ技
りんごをそこに置いとく。だけで、深読みしてくれるから楽なもんだよ。さる演出家に言われてミヨは心をモヤモヤさせた。
それってひどくない?
視聴者に対して誠実ではないし、なんの意味なく置いて勝手に想像させることを期待して、でも監督もシナリオライターもキャストとかも知らないのに、単に演出家が現場でぽんと常にリンゴをどこかに置いておく。それって、みんなに対してひどくない?
ADであるミヨもいつかは演出や監督をてがけたい、そう願ってここにいる。
それに誠実な作品づくり。それがしたくてここにいる。
なのに、憧れの演出家はこんなもの。いい加減がすぎる。
しかし、翌週、さらに翌週、放送が終わるころには、ミヨは打ちのめされていた。ドラマはそれなりの評価だ。ただ、リンゴについて、議論になっていて熱心なファンがつくようになった。
この作品のテーマは知恵の実の罪にある、なんてSNSで熱心な人たちが、明後日の方向に飛んでるのに熱心な人たちが、まじめに議論してプチバズりを起こしている。
監督やシナリオ、キャスト、制作陣は、打ち上げで笑って演出家の肩を叩いていた。キミってやつはさぁ! 参るね! また次も頼むよ! ハッピーエンドみたい。
ミヨは、失意に似た穴にいる気分で、打ち上げでノンアルコールビールをくちにする。ビールのまがいもの。
でも、大ヒット商品だ。
……商品って汚いな、なんて、率直な感想が、思いがけずにぽろりとこぼれた。でも最後にしなくては、と自戒した。
わたしも、みんなを騙せるように、なるんだから。勉強しなくちゃ。
END.
読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。