はやがけの馬たちが征く
馬は速く走ることを要求される。でなければ食糧だ。なんなら速く走れても用が終われば食糧。というかほぼ食糧だ。
野生で生きた馬たちが捕獲されて調教されて、速く走れと鞭を打たれ、そして走り終えたら晩ごはんにされる。もしくは食用として売り払われる。馬の寿命は決して短くはないのだが、こうした理由で、短いあいだしか生きられない。
馬の美しさに見惚れた人魚がいた。馬たちをことあるごとに魔法で得た足で陸にあがっては馬たちの様子を見る。
人魚は、美しさに目がない。馬の美しい筋肉に、毛の色にほうとため息を吐く。
そうしているうちに、すぐ馬たちがかわるがわる交代することに気づいた。馬の寿命が短くされていることに。人間に捕食されて浪費されていることに。
その人魚は、夢を叶えることにした。
夜のうちに厩舎に立ち入って、ナイフで自分の肉を抉って、馬に(たべる?)(たべて)(いっしょに行こうよ)微笑んでは誘惑する。馬たちは、次々に人魚からの捧げものを食べていった。
そうして、ユニコーンやバイコーン、ペガサス、人魚にそのまま連れられていき、海に移住した馬は、ケルピーになった。馬の妖精たちが誕生した。ところどころが抉れた人魚は、ケルピーとともに海でたわむれて、また陸に出向いては馬を誘拐した。助け出した。
人間たちは、オオカミがでる、と騒いだ。馬が消えるからだ。
そしてオオカミを絶滅させた。
愚かな者たちね、妖精の馬やら人魚やら怪異やら、皆そうして人間を見限っていき、2020年を超えてからは、もはや人間の目にはそうしたふしぎな生き物は見られなくなった。
みんな、見捨てられたのである。
この星に残るは人類だけになる、そんな日も近い。
はてさて、そうするときっと、殺し合うことだろう。なんせ人間であるから。愚かであるから。
せまくなった星に我慢できず、場所を奪い合うのだ。
そんな日は、もうすぐそこにきた。
はやがけの馬が走る、それほどのスピードで。
END.
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