沖縄の海の価値!!
知らなかったことにしよう。ミコは眉間をねじまげて洞窟の穴に石をぼたぼちゃ落としていった。
なにやら、聞き慣れない単語。
異国の言葉。
(人魚って水んなかでも喋れるんだ?)
がぼがぼ、ごぼごぼ、水中ではそうなってしまう人間とは明らかに違う。声帯がどこにあるのか少し気になった。
しかし、気がかりなのは、こんなツチノコみたいな幻の生き物を発見してしまい、新聞やらテレビやらネットメディアやら、取材やら群衆やらが殺到することだった。
ミコはこの海を愛している。サンゴ礁を愛している。
だから、人魚なんてサプライズは、いまさら不要なのだった。
ミコにとって沖縄の海は完璧だ。パーフェクト。環境汚染は、無法者は、滅ぶべし。そう念じてダイバーをやっている。
今とて、ゴミ拾いのために洞窟に入ったのだ。なにやら音がして、ソイツは現れた。親しげにミコに笑いかけてきた。
指差しもしていて、ダイバーの最中に出会っているように思えた。人魚のソレは、再会を喜ぶ人間の動作によく似ていた。
けれど、ミコは今の沖縄の海を完全なモノとして愛している。
これ以上の観光客、メディアはいらぬ。
ミコのまえに石の山ができた。
人魚のしらべも、聞こえなくなった。
(……おっけー、おっけー)
自らに言い聞かせて、立花ミコは、その場を立ち去った。
ついでに後日、岩礁で怪我した者あり! 立入禁止! と、自作の立て札を石と石のあいまに突き刺しておいた。
(うん、よしよし!)
ダイバーは額の冷や汗をぬぐう。
それから、一度たりとも、その洞窟には戻らなかった。彼女にはその程度のものだったからだ。
END.
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