公益通報・内部通報をめぐるあれこれ雑感

裏 法務系Advent Calendar 2024のバトンをSayuri-shsdさんから受け取りました。 
https://adventar.org/calendars/10169

1 はじめに

 本年は兵庫県の話をはじめ、公益通報制度や内部通報制度が話題になる年だった。この制度は種々の立場から種々の議論がなされるところだが、公益通報者保護法にとどまることなく、内部通報制度・内部告発制度についてとりとめもなく感想を述べてみる。
 なお、公益通報者保護法の対象範囲は内部告発制度の一部であると考えられることから、公益通報に限らずより広い内部通報又は内部告発を念頭に置いている。

2 公益通報者保護制度・内部告発制度の機能・役割

 公益通報者保護法では必ずしも整理されているとは言い難いが、内部通報保護・内部告発者保護の機能はつぎのように分類されよう。
① 内部告発者の報復行為からの保護
② 内部告発の対象となった組織の自浄作用の発揮
③ 捜査機関・行政機関による法執行のための資料
 このうち、①の内部告発者の保護は、不法な行為の告発に対する報復行為を法が保護する必要はないという「法は不法に助力せず」との考え方に少なくとも基づくように思われる。同時に、内部告発者への報復行為が捜査機関・行政機関の法執行への妨害となるところ、法執行の妨害行為の禁止という側面もあるといえる(③との関連)。
 次に、②の対象組織の自浄作用の発揮、いわゆるコンプライアンスの発揮については、広く認識されているところであろう。中規模以上の企業にとっては隅々まで目が届きにくくなるところ、有効な機能であろう。
 最後に、③である。本邦では必ずしも明確には意識されていないように見えるが、重要な機能である。捜査機関や権限ある行政機関に対してもたらされた内部告発者のもたらす情報は、刑事捜査や行政処分といった法執行を進めていくための重要な資料となり得る。この視点からは、内部告発者への報復行為は捜査や行政処分に向けた調査への妨害行為と評価しうる。

※ ③の観点からすると、内部告発者による情報提供が、本人や所属組織が負う秘密保持義務との関連が正面から問題となる。ちなみに、公益通報者保護法の立案担当者の見解はやや曖昧であるが、公益通報であることは法律上の秘密保持義務を解除しないとしている(ただし、一般法理に基づき個別の事案の解決としては内部告発の方が優先される場面はあり得るので注意。)。 

3 内部告発をめぐるいくつかのお話

 以上のような構造を念頭に、いくつかの問題について思いつくままに触れてみる。 
(1) 内部告発から生じる混乱をさけるために
 内部告発者は時としてセンセーショナルな話題となることもあり、その扱いについても様々な軋轢が起きがちである。しかし、そのような事態は当の内部告発者を含め多くの人にとって良い結果をもたらさない。内部通報の窓口・取扱担当者などにとっては自明なことかもしれないが、内部通報者が単なる情報提供者に過ぎないことを意識し、対立の当事者としないことが重要に思われる。若干補足する。

  •  内部通報などを理由とする不利益取扱いは原則として控えられるべきは当然である。しかし、そのことは内部告発者が「善」であることを意味しない。内部告発者のもたらす情報は完全なものも、正しいものでもないことが多いし、また完全であったり、客観的に正しい必要もない。単なる情報の断片の提供者に過ぎないし、それで充分である。

  •  内部告発などが寄せられた場合には、情報の受け手が適切に機能することが十分である。会社の通報受付部門であっても、行政機関の情報収集部門であっても、寄せられた情報の性質に応じた適切な対応をとることが重要であろう。

  •  避けるべきは、「通報者」対「組織」や「通報者」対「通報で名指しされた人」の対立としてしまうことである。このような対立構図、特に感情的な対立(善である通報者対悪である組織のような構図)が生じてしまうと対応は極めて困難となる。

 
(2) 公益通報者保護法が最低限のものであることを踏まえ、同法にとらわれすぎない
 内部告発をめぐって公益通報者保護法が気になるのは当然であるし、同法に沿って行動することは当然である。
 しかしながら、同法は内部告発にまつわる最低限の枠組みを定めたにすぎず(その割には体制整備など迷走しているが)、同法に抵触しなければよいというものではない。同法で禁止されない労働者等に対する不利益取扱いが違法とされる場面も十分にありうる。
 また、同法の解釈にあたっては、通報対象事実を1つとっても困難な問題が山積しており、解釈の振れ幅による不確実性のために右往左往することは有益ではない。同法に過度に拘泥することなく、内部告発に対しては寄せられた情報の内容を踏まえて適切な対応をすることが第一のように思われる。より広い内部告発・内部通報への対応という成文化されていない法原理に基づく対応を心掛けるしかない。
 
(3) 公益通報者保護法上の外部通報の扱い
 公益通報者保護法にとらわれ過ぎないことは重要なのだけれど、公益通報者保護法上の公益通報の一類型である外部通報(企業内でも、行政機関宛でもないもの)については注意が必要である。
 この類型はマスコミなどを通じた違法行為の是正が予定されているようである。この類型の通報が保護されるための要件はそれなりに高くはなってはいるものの、ひとたびこの類型の通報がなされてしまうと、同法上保護される要件を満たしているかに拘らず、不確実な情報がmさも確実なものとして扱われ、または避けるべき対立構造が不可避的に出来上がってしまうため、通報者を含めた各当事者への負担は相当なものとなることは注意されるべきである。
 なお、私自身は、公益通報者保護法の立法論としてはこの類型は廃止すべきだと考えている。必要な場合には一般条項による解決を図ることで十分である。
 

(4) 弁護士倫理の問題
 最後に触れておかなければいけないのは弁護士の懲戒実務の扱いである。会社などの通報窓口となった会社の弁護士が、取り扱った内部通報などに関して、通報者を相手方とする裁判手続について会社の代理人となることについて、懲戒処分を行った例が散見される。
 しかしながらこれは理解できない。弁護士が通報窓口となる場合、会社のため(ただし代表者などではなく観念としての会社である。)に行うものであって、通報者のためのものではないことは明確である。利益相反の問題は通常は生じない。裁判手続の提起自体が報復行為である場合や、通報者に対して会社のためではなく通報者のために活動するかのような誤解をもたらすような説明をしたような場合であればともかく、このような行為が一般に弁護士としての職務に反するとは思われず、懲戒処分の対象とすべきではない。
 内部通報に関する理論的な整理ができていない時期の混乱の影響を受けたものなのかもしれないが、速やかに改められるべきである。いや本当に。 

4 おわりに

 内部通報の取扱いは、実務上の運用は概ね定着しているように見えるが、とはいえ問題点や未解決の問題は残っているように思われる。やや極論を述べたかもしれないが、議論のネタにでもなれば幸いである。
 

次回は、ぼっち法務(Shun Yamashita)_Hubble CCO (https://x.com/one_onlegal)さんです。
 

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