投資先企業の事故時の株主・投資先の対応

(1) コインチェック社の記者会見
 2018年1月27日に発覚したコインチェック社の仮想通貨の流出事件について、同社の経営陣の記者会見にて、同社の経営陣が株主との協議の必要を理由に回答を留保するやり取りがみられました。
 同社の回答が、株主との間の投資契約書などを理由とするかどうか、またコインチェック社と株主との間の投資契約書や株主間契約書の内容は外部からは窺い知れませんが、投資先の事故対応にあたり株主・会社間で留意すべき点を書いてみます。
(2) 投資契約書が投資対象先の事故対応に与える影響
同社の事例からも窺われるように、投資先会社の事故発生時に、株主・会社間の投資契約書などを踏まえて株主である投資家、投資先の会社の双方がとるべき対応を事前に整理することは望ましいところです。この点の対応が不十分な場合、投資先の会社では情報開示などの対応に支障が生じかねず、また投資家である株主としても適切な情報開示を妨げたとのレピュテーションリスクが生じることとなります。
投資契約書の内容は案件によりけりですが、事故対応時のプレス発表を事前承諾事項に含めることは比較的少ないように思います。もっとも、プレス発表が事前承諾事項に含まれていない場合でも、プレス発表の適時性を損なわず、その他の弊害がないときにはプレス発表内容につき投資家と事前に適切な情報共有の実施が投資家からは望ましいところです。契約上事故発生などが事後報告事項に含まれているときは、投資先会社は投資家たる株主に必要な報告を行う必要があります。
例外的に事故発生の公表を株主事前承諾事項としている場合には、事故対応に支障が生じないよう予め事故発生時の手順を株主・会社間で整理する必要があります。事故発生後は混乱が生じることが多く、その場での対応となる場合、会社にとっては事故対応の遅延、株主にとっては事故対応遅延の原因としてのレピュテーションリスクが現実化する可能性が否定できません。そのような事態に陥らないよう、事前の手順の策定が望まれるところです。
他方で、通常は株主の事前承諾事項となっている、新株の発行や株主構成の変更など緊急を要せずかつ株主の権利に大きな影響を与える点については、株主の承諾など所定の手続きを取らないままに会社が方向性を示唆することのないよう留意する必要があります。
(3) 投資家のレピュテーション維持のための投資先の事業に対する関与
 投資先の会社に生じた事故について、株主が法的な責任を負わない場合でも、事故の金額や影響人数が大きい場合など、社会的な注目度合いの大きい場合には、投資をしている株主にもマスコミなどから取材を受ける場面なども考えられます。投資先の事業の運営に影響力を行使しうる立場にある場合などは、投資先の事業が適法適切に行われているかにつき株主としての立場から適切なチェックと関与をすることが、投資先の価値向上に加えて、株主のレピュテーションのためにも必要となるところです。

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