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下請法やフリーランス法での「支払期日」の記載・明示の方法について・・・「●月●日まで」との記載をどう考えるか


1 フリーランス法での「支払期日」の記載・明示の仕方


 特定受託事業者取引適正化法(フリーランス法)についてのパンフレットが7月24日に関係省庁から公表されました。
 フリーランス法では対象となる取引について報酬の「支払期日」を給付受領日から起算して60日以内のできるだけ短い期間で定めることが必要です。また、特定業務委託事業者は、定められた支払期日を特定受託事業者に書面等で明示する必要があります。
 ここで、以上のパンフレットでは、「●月●日まで」という記載では、支払期日を定めたとは認められないと明確に記載されています。
 この考え方は、類似した制度・条文を持つ下請法についての公取委の解釈と同じもののようです。しかしながら、日付は明示されているのになぜこのような記載が許されないのかは疑問なしとしないところです。

2 支払期日に関する法律の要請


 フリーランス法や下請法で、60日以内の「支払期日」の定めを求めているのは、次のような理由です。親事業者や委託事業者は取引上強い立場にあることから、支払期日を不当に遅く設定するおそれがあり、下請事業者や特定受託事業者の利益を保護するためのものであると考えられます(下請法について、公取委・下請取引適正化推進講習会テキスト(令和5年11月版)35頁参照)。
 これらの法律では、①支払期日が60日以内であることに加えて、②支払期日を「定める」ことを要求しており、単に支払い遅延のみを防ぐだけが目的ではありません。支払期日を明確にすることを強制することによっても、下請事業者や特定受託事業者の利益を保護しようとしているといえるでしょう。

3 支払期日の定めがないと評価される場面


 「●月●日まで」という記載が支払期日の確定・明示がないとの見解を公取委は示していますので、まずはどのような場面が想定されるかを考えてみます。
 最初に考えられるのは、当事者間で支払期日の合意や定めをすることなく、「法律上の支払期限まで」との交付書面の記載・明示をすることです。もう少し気を利かせた表現になると、受領日から60日以内の特定の日(できる限り期限に近い日)を記載して「●月●日まで」という表現を使うことも考えられるところです。
 このようなやり方での記載・明示が問題となるのはおそらく避けられないでしょう。法律は60日以内の支払だけでは足らず、支払期日の定めを要求しているところ、単に書面などで形式的に法律上の期限内に支払うと記載・明示しただけでは、当事者間では合意含めた支払期日の定めがあるとは言いにくいでしょう。
 このような場面では「●月●日まで」という記載や明示がなされたとしても、支払期日の定めはなされていないと言わざるを得ません。公取委の見解は、この文脈においては理由があるように思います。

4 表現の問題なのか実態の問題なのか


 もっとも、支払期日の定め方や記載・明示の方法として「●月●日まで」という表現をとる場合としては、以上のように形だけ記載・明示する場面に限られません。合意その他の方法により支払期日を定めた場合であっても、支払側が期限の利益を放棄してより早期に支払いをなしうることを踏まえて、「●月●日まで」という表現を用いる場合も考えられるところです。
 この場合は、上記3の場面とは異なり、当事者間では合意その他の方法により支払期日は定められている場面です。にもかかわらず、表記の問題だけで、支払期日の定めがないというのはかなり乱暴な話と感じます。書面や明示事項なので記載のみで判断すべきという考え方もありますが、記載どおりならむしろ特定の日付が示されていると読むのが自然ではないでしょうか。
 ただし、現実問題としては、合意その他の方法により支払期日の定めがなされたことをどう示していくかという点は残るように思います。

5 小括


 以上のとおり、支払期日の記載・明示の方法としての「●月●日まで」という記載は、例えば法律上の期限をそのまま引き写しただけの場合など、実体として当事者間での合意などの支払期日の定めがない場合には、公取委の見解のとおり、不適切だと言わざるを得ないのでしょう。ただし、「まで」という表現により支払期日の特定性が欠けるというのではなく、実態として支払期日についての定めがなされていないという整理の方が適切なように思われます。そして、不適切だとされるのも実態として支払期日の定めがなされたとは言えないような場面に限られるべきでしょう。
 これに対して、同じく「●月●日まで」という支払期日の記載・明示がなされている場合であっても、諸事情から特定の支払期日(●月●日)の合意その他の定めが当事者間になされている場合であって、単に支払者がそれより前に支払うこともあり得るという趣旨の記載であれば、これを不適切とする理由はないように思います。
 例えば、法律上の支払期限より相当程度早い日(例:給付の日から30日後に相当する日など)の日付を明示している場合には、「まで」という表現があったとしても、当事者間での支払期日の合意又は定めがあったと評価できる場面が多いのではないでしょうか。
 「●月●日まで」との記載・明示では支払期日を特定したとは言えないとの公取委の見解は、ある特定の場面では妥当するように思います。しかし、その表現が用いられた場面でも、支払期日の特定がある場面も十分に考えられ、事案に即した評価が必要なように思います。
 公取委の見解が示されている以上、支払期日をあえて「●月●日まで」と表記する理由はないのでしょうが、この問題についての検討の糸口になれば幸いです。
(了)
 


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