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noterさこうさんとコラボ【お伽話】もうすぐ寒い風が吹きます

秋が深まる気配が漂ってきました。
もの淋しい気分になるのは、こんな季節のせいでしょうか。
今日はお伽話のようなものを綴ってみます。
この創作のきっかけを与えてくれたのは1枚の絵と短歌です。

その街は君を包んでくれますか
もうすぐ寒い風が吹きます


こちらはnoterさこうさんが詠まれた短歌とAI生成による画像です。
この記事を見て、脳内でいろんな妄想が膨らんでしまいました!笑
一人でだいぶ楽しんでしまったのですが、今日はお伽話に仕立てて昇華させたいと思います。



このお伽話は、大切なお母様とかわいい愛犬を、この夏に同時に亡くしてしまったnoterさんに捧げます。
傷ついて彷徨う魂が、帰る場所を見つけられますように。




お伽話「もうすぐ寒い風が吹きます」


あの夏の日から、ユキの時計は止まったままでした。

ユキは11歳の女の子。
一人っ子のユキにとって、犬のテンだけが兄妹きょうだいでした。
もうおじいさん犬のテンは小さいけれど、ユキにとっては頼りになるお兄さん。寝る時はいつも一緒でした。

そのはずなのに、
ユキは今、毎晩ひとりでベッドに入ります。
今夜はどうにも、涙が止まりません。

入院していたお母さんをお見舞いに行くと、ベッドで寝ていたお母さんは、ユキの手をぎゅっと握ってくれましたけれど、
お母さんの手はもう壊れそうで、ユキは握り返すことが出来ませんでした。

悲しかったけど、
いつも犬のテンが一緒にいてくれました。



けれどもとうとう
お母さんが死んでしまったその日
泣き続けるユキの傍で
ずっと涙を舐めてくれていたテンも、

寿命が尽きたのでしょうか
お母さんを追うように
4日遅れで死んでしまったのです

こんなことがあっていいのでしょうか
ユキは神様を恨みました
人生で一番辛い時に
テンまで連れていってしまうなんて



季節が移ろって秋が来ても、ユキの心は袖なしワンピースのままでした。
誰にも伝えられない痛みを抱えて、今夜はひとり涙で枕を濡らします。

テンのぬくもりが恋しくて、みけんが痛くなるほど泣いて、そのままユキは眠ってしまいました。


気がつくと、
ユキは見たこともない町に迷い込んでいました。
手には小さな手提げをひとつ持って。


いつの時代なんでしょう。ユキには見慣れないものばかり。
それでもユキは、あてどなく歩いていました。


「あれ、見かけない子だね、 どこの子だい?」

ユキがふり返ると、
自転車をいじっている男の人が、やさしそうな顔で見ていました。

「どこって、よくわからないんです」

「ふーーん。 じゃあ、どこに行くんだい?」

「それも、わかりません」

「そうかい。 ここは、一見ちいさな町だけど、奥が深いから
 ちゃんと戻って来なきゃダメだよ」

男の人はそう言って、またにこりと笑いました。
ユキは「はい」と答えて、また歩きました。



ずいぶん高い所まで、家が建っているものです。
ユキがあらためて見上げると、上のほうの部屋からおばあさん声で、なにか歌っているのが聞こえて来ます。

「 🎵 べんせい~~  しゅくしゅくぅ~~ぅぅ~ 」

なんの意味かわかりませんでしたが
ユキは、ほんのすこし懐かしいような気分になりました。



遠くの方に、ベランダのある家が見えました。
よく見ると、何かがベランダで動いています。
犬です!
茶色い犬が、ベランダで遊んでいるようでした‥‥

ユキは、その犬に会いたくてたまらなくなり、路地裏へ入っていきました。

こんもりとした樹に囲まれながら、その家は建っていて、時々 元気のいい犬の鳴き声がしています。
ベランダがあるほうにユキがまわると、うれしそうに尻尾を振っている犬の姿が目にとびこんで来ました。

(かわいいなぁ‥‥)
見上げながら、ユキはたまらず呼び掛けました。
「わんちゃん! わんちゃ~ん!」
手を振ると、茶色い犬は、尻尾を振って返します!


「だれかいるの?」

家の中から、女の人が顔を出しました。
‥‥ユキは一瞬で言葉を失います。

「あら? どこの子だったかしら? こんにちは」

「こ、こんにちは‥‥」

「犬が好きなのね、 遊んでく?」

「あの、 いいです‥‥」
ユキは突然のことに、恐縮してしまいました。

「いいのよ、どうせ暇なんだから」

茶色い犬を抱いた女の人が出て来て、縁側をあけて招いてくれます。
ユキは緊張しながらも、嬉しさが勝って駆け寄ってしまいました。


犬と遊ばせてもらったユキは、ひさしぶりに心が躍るのを感じました。
テンもこの犬とおんなじ、栗茶色の毛並みでした。
なんべんも背中を撫でていると、手のひらに、テンの感触が蘇ります。
悲しいけど、いとおしい気持ちで、胸がいっぱいです。

「あなた、本当に犬が好きなのね  うちの子もこんなに懐いちゃって」
女の人も、優しいまなざしで見つめています。

「ねえ、ちいずけえきがあるのよ、食べていきなさいよ」

ユキの返事も待たずに、女の人はお勝手に行って、お皿を出し始めました。
そういえば、ユキはお腹が空いていたのでした。

「このあたりじゃ珍しいのよ、ちいずけえき」

お皿の上のチーズケーキは、ユキのお腹に入ると、その甘さが心の中まで満たしてくれるようです。
女の人は、犬がおねだりすると、ほんのちょっとだけチーズケーキを食べさせていました。


「あなたが持ってる手提げの中には、いったい何が入っているの??」
女の人が、すこし悪戯っぽく尋ねてきました。

「この中には‥‥」
そう言いかけて、ユキは黙ってしまいました。
自分でも、何が入っているのか、わからなかったのです。
手提げの口を開いてみました。

中には小さい流木が、いくつか入っていました。
手提げの底の方には、綺麗なシーグラスもいっぱい。

「なあに、それ??」
女の人は、見たことが無かったらしく、すこし驚いているようです。

「これ、流木なんです、 うちの近くの海岸で拾ったの 」

ユキは思い出しました。

「わたしのテンが大好きな、おもちゃなんです」

「テン って、あなたのわんちゃん?」

「はい、 それから、こっちの綺麗なガラスはシーグラスっていうの」

「まあ、きれい」

「お母さんが、シーグラス、好きなんです、だから、たくさん拾って集めたの」

「じゃあ、だいじなものね」


「この流木、あげます」

「え? うちの犬に?」

「はい」

「でも、テンちゃんのが、無くなっちゃうわ」

「いいんです、テンは死んじゃったから、
 お母さんも死んじゃったから、シーグラスもあげます、ぜんぶ! 」

そこまで言ったら、ユキは我慢ができずに泣いてしまいました。
人の前で泣いたのは初めてでした。

「悲しい思いをしたのね」

女の人はユキの背中を撫でてくれました。
子犬になったような安らかさが、ユキを包みます。
(このまま、この女の人の犬になってしまいたい‥‥)

そしてユキは、一瞬の願いのとおり、子犬になっていました。



子犬になったユキは、人間でいた時の悲しみを全て忘れて、茶色い犬と一緒にじゃれ合いながら、楽しく暮らしていました。

ある時、ふもとの方へお散歩に出掛けて、なんとなく見覚えのある男の人に会ったのです。

ユキは、尻尾を振って、男の人の匂いをかぎに近づきました。
男の人は「よしよし、いい子だね」と言って、ユキの頭を撫でてくれました。

けれども、その人はさっと顔色を変えて、ユキを抱き上げたのです。

「おまえは、この前のお嬢ちゃんだな?!」

男の人は、ユキを抱いたままお向かいの家へとびこみました。

「おじゃまするよ! いるかい?」

男の人の大きな声に、家の奥から女の人が出てきました。

「とのこおばさん、また路地裏に迷い込んだ子がいたんだよ!」

「ほう‥‥」

とのこおばさんと呼ばれた女の人は、ユキを抱き取ってしっかりと抱えてくれました。

「とのこおばさん、この子を帰してやらなきゃ」

「ああ、わかってるよ、  心得ているから、任せときな」

とのこおばさんは、ユキを受け取って柔らかい座布団に座らせてくれました。
それを見て、男の人は安心して帰っていきました。

「おまえのことは、ぜんぶ知っているよ、ここへ迷い込んだのも、偶然では
 ないのさ」

犬になっても、ユキには言葉の意味がぜんぶわかりました。

「かわいそうだが、おまえはここに居続けるわけにはいかない、
 人として、まだやらねばならないことがあるからな」

まだ子どもだったので、ユキには受け入れられない言葉もありました。

よくわからないまま、とのこおばさんからもらった「ご飯」を食べて
ぐっすり眠った犬のユキは、
翌朝、目が覚めると人間の姿に戻っていました。
同時に、全てを思い出し、深い悲しみも蘇ってしまいました。



とのこおばさんは、どこから捜し出してきたのか、ユキの袖なしワンピースを差し出しました。

「もう、夏はおわった。 おまえはもっと暖かいものを着ないと、
 風邪をひくよ」

ユキはワンピースをその手に取りました。
こんなに薄いものを着ていたなんて。

そして、とのこおばさんが出してくれた暖かい秋服に、袖を通させてもらいました。
人間に戻って毛皮を失ったユキの体を、その服はしっかりと包みました。

「おまえは、また子犬になりたいかい?」

そう聞かれて、
子犬の暮らしは愉しかったけれど、
お母さんのこともテンのことも忘れてしまうのは、
とっても嫌だと、ユキは思いました。

「悲しいけど、人間がいいです」

とのこおばさんは、すこし心配そうに尋ねました
「おまえは、友達はいないのか? なんでも話せる相手はいないのか?」

「友達は、たくさんいます」

「ならば、悲しい時は、悲しいのだと話せばいいではないか」

ユキはすこしためらいながら、とのこおばさんに言いました。
「友達のお母さんも、病気なんです、 友達の犬も、弱ってて、
 だから、お母さんやテンが死んじゃったことは、言えないんです」

「おまえは、優しい子なんだな」


「しかしな、人も犬も猫も、生き物はみんな順々に死ぬのだ、 
 死んだからといって、何の遠慮がいるものか!」

それを聞いても、ユキはすぐには同感できませんでした。
けれども、いつか、誰かに、話せたら、それもまたいいのかも知れないと、すこし感じたものもありました。

ユキは、空っぽになった自分の手提げをしっかり握り直して、今度はこれに、友達のためのシーグラスを拾い集めようと、心に決めました。


その街は君を包んでくれますか
もうすぐ寒い風が吹きます



「さあ、もうすぐ寒い風が吹くぞ、 おまえは家にお帰り!」

とのこおばさんのその言葉を聞き終わると同時に、一瞬にしてユキは眩しいめまいを感じて、光の渦に吸い込まれるような流れに身をまかせました‥‥

どこか遠くから、聞きなれた潮騒の音が、近づいて来るようでした。


(おしまい)


許されるものであれば、
尊い親を亡くされたかた、愛する動物を亡くされたかたの、心の痛みを分けてください。
あなたの笑顔が大好きです。




短歌とAI描画の名手・さこうさんは、こんなかたです🎵


    🌺🍃この記事は「騙り部(カタリベ)」活動に参加しています。





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