日本におけるP2P電力取引のいま: 2/7 実現への期待及び想定される課題(阪大・西村氏)
大阪大学大学院工学研究科ビジネスエンジニアリング専攻 招聘教授 西村 陽 氏
大阪大学の西村と申します。私からは今の大串さんのお話を受けまして、P2Pイノベーションの意義と、ここまでエネ庁を中心に色んな人P2P回りの制度改革とか将来の発展可能性を作っている、と言う現状についてご報告したいと思います。今からお話する話は主にエネ庁「次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会(以下「プラ研」)」と言う研究会、及びアグリゲーターや、再エネバランシングを扱っているようなERAB(Energy Resource Aggregation Business)検討会などでの最近の様子を中心にお話したいと思います。
(下記スライド1)まずP2Pの意味合いについてです。言うまでも無く電気事業の全体が大きく今変わっています。2010年以降に特にヨーロッパで風力発電が導入されて、昔の、大きな電力会社が作って送る世界からだんだん多元化、分散化、脱炭素になっている。要素としてはDERの活用あるいは、そこをフレキシビリティにする、再エネをカップリングして同時同量含めて運用、IoT、蓄電池、屋根載せPVとか色んな要素を使って、今までのkWh作って売るビジネスを中心に組み立てられてきたものが変化してきた。行きつく先はどこかと。
制度の話をしますが、いきなり分散化を支える制度にはなかなか行けない状況であります。2020年は、多様な個が、システムに参画し、レガシィシステムと融合したり、共進化たりしていく過程にあると思います。次世代の電力プラットフォームはおそらく、送配電でDERを受けて再エネを受けられるプラットフォームと、そこにアグリゲーター、P2Pも含めて何かを打ち込むプラットフォーム、というのが二層になってできるが、この実現に一番大事な最後のコンテンツがP2Pだと思っています。
適用範囲と言うのは、フレキシビリティ、kWh、再エネもあるでしょうし、BGとアライアンスを組んでいるような「疑似P2P」と先ほど大串さんが表現されていた形もあり、極めて広い可能性があってどれが有望でどんな形になるのかは今分かりません。なので今後のビジネスのチャレンジから知見を引き出してやらなきゃいけないし、計量法の関連法制とか取引法制とか色んな法制がかかわっていますので、そこを上手くフォローしてやって行かないといけない。
(下図スライド2)ヨーロッパで良く書かれているエネルギー・トランジションの大きな像はこんな感じで、もともとエネルギー業界はコモディティを売っていましたよね。独占だった時代(1.0)と競争だった時代(2.0)とあるんですが、何れにせよアセットが価値を生んでいた。今でもほとんどそうなんですけど、右の世界に行くとデータ、DER、IoTでここにおそらく個の参加と入ってきて、既に世界のエネルギー企業の経営者は、賢い人たちは、右側の方に入っていかないといけないということに気が付いていて、そこでP2Pとのアライアンス、P2Pに投資とか含め、行われていることだと思います。
(下図スライド3)制度整備で、例えばすごく難しい問題で、太陽光を屋根に載せて、それを計量しようとすると逆潮分しか測ってないので、逆潮じゃない分を含めて太陽光の発電データを取ろうと思ったら、パワコンの計量で取引することは許されていません。検定計量器を必ず付けないといけないと言う面倒くさい問題がありまして、これを特定計量制度と言う形で変えて行こうということになっています。
(下図スライド4)P2Pのプラットフォームはプラ研ではこのように整理されています。系統を使わない、託送同時同量をやらない範囲で言うとマンション型・EV型・自営線型ということになりますし、系統を使う場合はその託送を利用している小売事業者とカップリングするような形でできるものは今のところ出ていまして、こういう整理をされております。小売電気事業者とアライアンスを組みながらやっていくP2Pは今の時点で出てきていますが、完全自立型P2Pって世界の中でほとんどやって無いので、そこに向けてどんな整備制度が必要かは今後議論されていくと思います。
(下図スライド5)結局、その時に誰とどんな風にP2Pが発展して行くかということなんですけど、P2Pプラットフォームの価値に消費者がたくさん集まってきてそこで大きなパワーがあり、使い勝手とか集客力を高めていくと託送事業者もそれを無視出来なくなりますから、そこと上手くアライアンスを組んで今進んでいるP2Pの形を発展する形でやっていくことが出来ます。今のプロセスでここが非常に大事な要素の一つだと思います。
(下図スライド6)一方、これは関西電力の石田君が書いた絵ですが、環境価値取引も含めたトライアルです。卒FITが出てきており、どこかで個人売買みたいなテストをしないといけないので、実際この疑似P2Pみたいな実装をどこかで個人個人で始めていくことが一つポイントかと思います。
(下図スライド7)先ほど出た特定計量器の話は今は±5%でパワコン横で測るような簡単な計量器があればP2Pを助けるような、太陽光で発電した電気の確定みたいなことに使えるではないか、まデータ伝送の問題とか色々あるんですけど、こういうところまで今は進んでいるというような状況です。
(下図スライド8)再エネ大量導入小委員会と今やっているのですけど、その中で出ている上図では、アグリゲーターが再エネをバランシングしていきます。この後田中先生が再エネをいかに個人の力でバランシングするかと新しいパターンの話をしてくださるんですが、今アグリゲーターに期待されているのが、kWh市場で市場の力を使って売買するものとか、再エネの価値で稼ぐものとか、⊿kWに売れるものとか、これらのもので稼いでアグリゲータを育て、再エネバランシングをしようという話になっています。
結局これらは個人で持っているリソースがほとんどです。特に小さなものは蓄電池なりPVなり、太陽光のリソースは左側にあるんですけど、今はアグリゲーターの育成ということで一生懸命制度を作っているんですが、P2Pに発展する可能性が当然あります。次の時代に向けてちょっと発展の絵を描かなければいけないので、どんな形が良いか分からないんですけど、この絵にちょっと近いような会社があるとすれば、大手エネルギー企業であるシェル傘下のSonnen(ゾネン)社の複合P2Pモデルではないかと思います。
(下図スライド9)Sonnenは皆さん良くご存じと思いますけれど、出来て10年になりまして、太陽光+蓄電池で主に蓄電池の一種のコミュニティをたくさん持って、多国展開していると言う会社です。実はこの会社がBG(バランシンググループ)も持っています。蓄電池の販売をやっている会社でもあり、アグリゲータとしてDERを集めている会社であり、BG・小売会社で託送利用しているというところでもあり、P2Pプラットフォームを持っていると会社です。
この四つを使いながら、ブロックチェーン技術も使い、再エネの価値といろいろな複合型な価値モデルを持っている会社です。根本的には、コミュニティにたくさん人を入れていく力なんですけども、P2PがP2P単独では無くてこういう複合的に発展し、いろいろな価値に広がっていくと言う意味では我々の見ている中では一つの発展モデルかと思っております。
(下図スライド10)このプラットフォームの上図は私がプラ研で出しました。送配電は、系統管理をしたり、スマートメーターのデータを加工したり、蓄電池などどんなものがどこにあるかを登録・アップロードするタイプの図の上半分の送配電のプラットフォームと、図の下側にある顧客とのエネルギー取引、これは電力会社とか新電力が持っているkWhの取引データベースです。それと、最近増えているエネマネ、Aルート・Bルートありますが、データプラットフォームがあります。もう一個、アグリゲータの、EVや蓄電池をどんな形で充電しましょうかというものがあり、ここの一番大事な最後の要素としてP2P取引とか環境価値取引がここに載っていきます。
この下の三つ一緒になるのかあるいは別の事業者がアライアンスしているのかまだ形をちゃんと描いているものが無くて、これからのいろいろなビジネスの形で決まっていくわけですが、大きな構造としてはこう言う物が送配電ネットワーク側と小売サービス側・P2P側が構造を成すということになります。今まさに今年からNEDOの実証で上半分作りかけておりまして、下の方も大きな電力会社はDERとか太陽光の話ばっかりしているので、色んなアライアンスが今後出て来るかと思います。こういう時代になったら関連のビジネスプレイヤーが皆連携しあったり、良いとこ取り合ったりする時代になっているではないかとうふうに思っております。
(下記スライド11)時間もだいたい来ましたので、私からまとめを申しますと、大きな電力・エネルギービジネスの転換、分散化する、多元化する、脱炭素化するこれはもう止まらないです。昔の発電所をぶわっと作ってぶわっと売る時代はもう来ないので、その部分が7割がた残りながら、必ずどこかに次の世界がやって来て、その一つが大量のプロシューマが生まれることです。
これは今の太陽光もそうですし、蓄電池もそうだと思うんですけど、その時にP2Pの在り方としては、制度の建て付けなどによって今思っているようなP2Pが出来ないギャップがあるから、今出来ることからステディにビジネスの可能性を広げることが大事だと思っています。プラットフォームもまさにエネ庁側でも作り始めているとこなんで、そこから今こういう情報流通がとても大事になっています。なので今日みたいな情報交流の場も含めて関係者が上手くボトムアップして色々やって行かないといけないと思います。
最後に一言申し上げると、今構想されていることは全てではないと思います。だから個人個人が自分の持っている物をどんなふうに使いたいかとか、どんな思考で誰と結びたいと思うかを上手く吸い上げることによりいろいろなP2Pの可能性が広がっています。行政当局もこの部分の可能性に物凄く興味を持っていて、プラットフォーム研でもどう掘り込みましょうねと常に話題になっていますから、私自身ももうちょっと勉強しないといけないと思っていますし、今日皆さんの議論を聞かせていただいて勉強させていただければと思っています。私から以上です。ありがとうございました。
本イベントの記事
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