スコア・グレードの覚え方 − 『勉強法編』への補足 −
ここまで、救急専門医である私がJSNET専門医(脳神経血管内治療専門医)試験の受験に向けて「どのような試験勉強をしてきたのか」という概論を綴ってきましたが(未読の方は以下リンクをご参照下さい)、補足も兼ねて今回は、脳外科領域のスコア・グレード分類の覚え方に関する私の工夫を共有していきます。
(1) どんなスコアやグレード分類があるのか
JSNET専門医試験に当たっては、特に以下のグレード分類が重要になってくると思います。
脳動脈瘤(破裂・未破裂の双方を含む)に関するもの
PHASES, UCAS-Japan:未破裂脳動脈瘤の破裂予測スコア
ELAPSS:未破裂脳動脈瘤の増大予測スコア
WFNS(World Federation of Neurosurgical Society), Hunt and Hess分類:くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage: SAH)の重症度分類。意識レベルや神経症状などを基に判断。
Fisher分類:SAHの重症度分類。画像所見を基に判断。
脳動脈奇形(AVM: arteriovenous malformation)に関するもの
Spetzler and Martin(S and M)分類:手術時の合併症リスクの分類
Supplemented S and M分類:S and M分類に新しい項目が加わったもの
硬膜動静脈瘻に関連するもの
Borden, Cognard分類:未治療時の合併症率などと関連性あり。血管撮影所見を基に判断。
脳卒中全般に関連するもの
NIHSS(National Institute of Health Stroke Scale):脳卒中の重症度分類
modified Rankin Scale:脳卒中発症前のADLや, 発症後(退院時など)のADLを評価
虚血性脳卒中に関連するもの
CHADS2:心房細動患者の血栓塞栓症リスク評価
HAS-BLED:抗凝固薬開始前に出血リスクを評価
ABCD2, ABCD3, ABCD3-I:一過性脳虚血発作患者の脳卒中再発リスク
ここまで沢山あると、「覚え切れない!」と思う方もいるでしょう(私もそうでした)。全部覚えておくに越したことはないのですが、特に私が「覚えにくい!」と感じたのが1) PHASES・UCAS-Japan・ELAPSS, 2) S and M分類, 3) Borden・Cognard分類 の3項目(合計6件)でした。
3)については、私では解説が難しいので成書(或いはもっと詳しい先生方)へ譲ります。他方、1), 2)については覚え方のコツが見えてきたので、今回皆様と共有していきたいと思います。
(2) グレード等の覚え方
まずグレード分類を覚えるに当たり、「同じ疾患に関するグレードに関しては共通項を認識する」, 「規則性・法則性を見出す」ということが重要です。その上で、各グレード分類を見ていきましょう。
1-1. PHASESとUCAS-Japan(注:この記事の冒頭に私のノートの写真を添付していますが、成書もご参照下さい)
まずPHASESには、'Population(人種)', 'Hypertension(高血圧)', 'Age(年齢)', 'Size(動脈瘤径)', 'Earlier SAH(SAH既往)', 'Site(瘤の位置)'の6項目が含まれます。
他方、UCAS-Japanには『高血圧』, 『年齢』, 『動脈瘤径』, 『動脈瘤部位』, 『性別』, 'Daughter sac(blebを伴うか否か)'の6項目が含まれます。
こうしてみると、PHASESとUCAS-Japanの2者で共通している項目が見えてきます。1) 『高血圧』, 2) 『年齢』, 3) 『動脈瘤径』, 4)『動脈瘤部位』の4つです。このうち、1)~3)についてはPHASESとUCAS-Japanで似たような構成(?)になっていることが分かります。
高血圧・年齢について:両者ともに、高血圧は「あり」で1点, 「なし」で0点となっており、年齢も「70歳以上」で1点, 「70歳未満」で0点です。0か1かで別れる、ある意味単純明快な項目です。
動脈瘤径について:大まかではありますが、両者とも「7 mm未満」, 「7~10 mm」, 「10~20 mm」, 「20 mm以上」に分かれています。但し、冒頭の写真にもあるように、PHASESとUCASでは点数の割り付けが異なるので要注意です。
動脈瘤部位について:PHASESでは内頸動脈, 中大脳動脈, 前大脳動脈・後交通動脈・後方循環系 の3つに分かれている反面、UCASでは内頸動脈, 前大脳動脈・椎骨動脈, 中大脳動脈・脳底動脈, 前交通動脈・内頸動脈-後交通動脈分岐部 の4つに分かれています。
両方覚えるに越したことはないのですが、私個人としてはPHASESが覚えやすかったです。加えて、両スケールともに、合計点により予測破裂リスクが異なってきます。
UCAS-Japan:3年間の破裂リスク
0~3点:<1%
4~5点:1~3%
6~8点:3~9%
9点:9%<
PHASES:5年間の破裂リスク。本当はもっと細く分かれているのですが、今回は私なりに覚えやすくまとめたものを提示します。
≦2点:0.4%
3~4点:<1%
5~6点:<2%
7~8点:およそ2~3%
9点:およそ4%
10点:およそ7%
12点:およそ10%
12点<:およそ18%
1-2. ELAPSSスコア
これも1-1のPAHSES, UCASと同じような項目が含まれています。ただ、PHASES(やUCAS)よりは覚えにくい印象がありました。5点以上であれば5年間で10%以上の拡大率が予想されるので、年2回の画像評価が推奨されます。5点未満では年1回程度の画像評価で良いそうです。
Earlier SAH: 「なし」は0, 「あり」は1
Location(動脈瘤部位)
内頸動脈・前大脳動脈・前交通動脈:0
中大脳動脈:3
内頸動脈-後交通動脈分岐部・後方循環:5
Age:「60歳未満」は0, 「60歳以上」は1
Population
北米・中国・欧州:0
日本:1
フィンランド:7
Size
1 mm≦ x < 3mm:0
3 mm≦ x <5 mm:4
5 mm≦ x < 7 mm:10
7 mm≦ x <10 mm:13
10 mm≦ x:22
Shape:daughter sacが「なし」は0, 「あり」は1
2. S and M分類
この分類で評価するのは、『AVMの大きさ』, 'Eloquence(雑な言い方ですが、「重要な機能を有する部位にAVMがあるか否か」)', 『静脈流出パターン』の3項目です。これらの各項目の点数は、以下の2パターンに分類できます。
点数が0と1の2つだけ:'Eloquence'と『静脈流出パターン』の2項目です。前者は「なし」で0点, 「あり」で1点であり、後者は「表面だけに流出」で0点, 「深部への流出あり」で1点です。
点数が1, 2, 3の3段階:『AVMの大きさ』1項目だけです。これも、「<3 cm」で1点, 「3~6 cm」で2点, 「6 cm<」で3点という割り振りですが、「3 cmずつで区切られている」と認識することが重要です。
次回以降の記事ですが、いつ書くのか, どのような内容にするのか等は全然決めていません。診療業務も忙しい上に、実技・口頭試験の準備をせねばならないので、記事作成にあまり時間と労力を割く訳にはいかないのです。
あと、今後も記事を書くにあたり、私なりの原則を改めて明記しておきます。
診療上知り得た情報に対する守秘義務, 著作権, 私自身を含む個人情報の保護には最大限の注意を払う。
内容の正確性には最大限の注意を払う。
脳神経外科専門医以外の医師(内科専門医, 救急専門医, 放射線科専門医)にも役に立つような情報発信を心がける。
著作権との兼ね合いに加え, より多くの医療従事者に有益な情報を発信する観点から、記事の有料化は基本的に行わない。
ぶっちゃけ4.については、ネット上に溢れている有象無象の情報商材(「◯◯で儲けよう!」という詐欺紛いのセミナーや, 所謂『頂き女子』とか)と同類になってしまうのが嫌だ、という私個人の価値観(或いは偏見)もあってのことです。
また、これまで私が書いた記事について、「ここを直して欲しい」とか, 「今後こんなトピックを希望する」といったものがありましたら、コメント欄にて遠慮なくご教示下さい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?