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非脳外科医が脳神経血管内治療専門医に挑戦 − 導入編 –

 noteご利用者の皆様へ
 お初にお目にかかります。私は、卒後11年目の救急専門医の'ちゃんえビビンパ'と言うものです。唐突ではありますが、今回、脳神経外科専門医ではない私が、脳神経血管内治療専門医に挑戦していく過程を記録に残し、今後この専門医取得を目指しておられる脳外科専門医の皆様のみならず、その他の領域の医師の皆様のお役に立てればいいな、と思いnoteでの記事作成を開始した次第です。 
 従って私の記事は医療従事者向けであり、一般の方々には難解であることを予め告知させてください。


(1) そもそも『脳神経血管内治療専門医』になる条件とは何なのか


 初めに、脳神経血管内治療専門医になる条件について簡単に解説します(早い話、『日本脳神経血管内治療学会』の公式HP[ http://jsnet.website/ ]をご覧頂ければ最も正確であるとは思うんですが)。

  1. 脳神経外科専門医・放射線科専門医・救急科専門医・内科認定医・内科専門医の『基礎訓練』を5年以上受けていること

  2. その上で、『専門訓練』を1年以上受けていること

  3. 脳神経血管内治療学会(※以下、JSNET [Japanese society of neuroendovascular therapyの略]と呼称)の正会員を4年以上やっていること

  4. 脳血管内治療を100件以上経験し,

  5. 尚且つ 脳血管撮影検査を200件以上やっていること

4.については、特定の疾患について「X件以上」という細かい規定があります。また、注目すべき点として、1.にもあるように、脳神経外科専門医でなくても取れる専門医であるということが挙げられます。
 専門医試験出願時には、上記1.~4.を証明する文書等をオンラインで提出します。書類審査で通れば受験票や, 試験の場所・日程等に関する文書が郵送されてきます。試験は筆記試験と口頭・実技試験の2段階に分かれており、だいたい5月下旬にまず筆記試験が行われ、それに合格した者だけが口頭・実技試験を受けることが出来ます。筆記試験に合格しても、口頭・実技試験の点数が基準に達していなければ不合格になるシビアな試験です。


【注意事項】

 私'ちゃんえビビンパ'は2024年5月31日現在、上記の筆記試験には合格していますが、口頭・実技試験については「これから受験する」という段階であり、現在も診療に従事しながら試験準備中であることに留意してください。
 また今後、続編を発行するに当たり、内容の正確性や著作権, 医療従事者の守秘義務, 私自身を含めた個人情報保護には最大限の配慮を払いながら記事を作成していくように努めて参りますが、至らぬ点などありましたら、コメントで遠慮なくご指摘頂けますようお願い申し上げます。


(2) どのような知識が必要か

 まず大前提として、実際に患者を診療したり, 手術に術者や助手として関与したり, 脳血管撮影検査を行なったりする等、脳神経外科の実臨床を通した経験蓄積が必要です。脳外科診療に従事していないと、取得はまず無理です(実際、JSNETの会員は圧倒的多数が脳神経外科専門医です)。
 とはいえ、試験は試験です。ある程度、ちゃんとした文献を読み込んで頭に叩き込んでおかないと受からないのです(また、その知識があってこその臨床です)。ここでは、私がJSNETの試験を受ける前に参考にした書籍やガイドラインを一通り紹介します。

1) 『パーフェクトマスター脳血管内治療 第3版』(滝和郎ほか, メジカルビュー社)

 脳神経血管内治療の標準的テキスト的な立ち位置の参考書です。分厚くて気が滅入る方もいるかと思いますが、通読しておきましょう。

2) 『脳卒中治療ガイドライン2021 改訂2023』(日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会, 協和企画)

 実際の試験問題では、「ガイドラインの推奨内容をちゃんと覚えているか」だけでなく、推奨内容の根拠となった疫学的な背景や, 参考文献(ランダム化臨床試験, 観察研究 etc.)の内容も踏まえているのか試されます。

3) 『臨床のための神経機能解剖学』(後藤文男ほか, 中外医学社)

 1)にも解剖学の解説項目はありますが、アトラス等が充実しているのはこの本と、後述する4)や10)のテキストです。
 脳神経血管内治療の試験とはいえ、神経症候や, 症候と解剖の関連性などについて細かい出題がされますので油断できません。

4) 『臨床のための脳局所解剖学』(宜保浩彦ほか, 中外医学社)

 解剖学を理解するには、3)だけでは不十分です。頭蓋内の血管に関する学習はこのテキストでだいぶカバーできると思います。

5)『詳細版 脳脊髄血管の機能解剖』(小宮山雅樹 著, メディカ出版)

 上記1)にも一応血管系の破格や先天奇形の記載はありますが、正直なところ不十分です(なお上記3), 4)にはほぼ記載なし)。軽くでいいので、このテキストを読んで覚えておく必要があります。

6) JSNETのCEPテキスト

 'CEP'とは、'continuous education program'の略です。毎年秋にJSNETの学術集会がありますが、その際にCEPの講義が行われます。内容は、脳血管内治療に関する最新のエビデンス紹介や, 新しいデバイスの紹介, 手術や術後管理に関するレクチャー等、多岐にわたります。会場で受講するのも一手ですが、JSNETの正会員で, 且つちゃんと申し込みをしていれば、後で学会公式HPからCEPのレクチャー動画を閲覧することも可能です。
 あと、このCEPにも参考文献があります。全部をチェックするのは流石に無理があるのですが、CEPで繰り返し取り扱われている疾患・病態・デバイスや, 繰り返し引用されている臨床試験, 解剖学的な解説(特に硬膜動静脈瘻など), 各種薬剤の適応・作用機序等に関しては、参考文献も確認していた方が賢明と思われます。

7) 『脳神経外科速報』(メディカ出版)

 名前の通り、脳神経外科領域の専門誌です。血管内治療に関する特集が組まれている号もあるので、確認しておきましょう。

8) JSNET公式HPに掲示されている『適正使用指針』

上記2), 5)同様に、推奨内容について問われるのみならず、根拠となった文献から出題されることもあるので、参考文献まで確認しておく必要があります。加えて、診療指針が更新されることもありますので、定期的に確認しておく必要があります。

9) 日本脳卒中学会のガイドライン

 同学会のHPから確認可能です。特に『r-tPA療法適正使用指針』はJSNETのHPに載っていないので、必ず目を通しておきましょう。時折、使用指針に追補が出ることがあるので、こちらも定期的に確認する必要があります。

https://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA03.pdf

https://www.jsts.gr.jp/img/rt-pa03_supple.pdf

10) 『脳血管内治療のための血管解剖 脳静脈』, 『血管内治療のための血管解剖 外頸動脈』(清末一路ほか, 秀潤社)

 外頸動脈系や脳静脈について、脳血管撮影画像も交えた解説が充実しており、かなり勉強になりました。

11) 各種デバイスの取り扱い説明書

 脳血管内治療では、カテーテルからステント, 塞栓物質に至るまで、色々な道具を使います。ここまで紹介してきた参考書に記載している場合もありますが、取り扱い説明書が最も確実だと思います。
 各メーカーの公式HP以外にも、『医薬品医療機器総合機構(PMDA: pharmaceuticals and medical devices agency)』にも収載されているので、確認しておきましょう。

12) 『脳神経外科』(医学書院)

 上記6)と同じく、これも脳外科領域の専門書です。血管内治療についての特集号があったりするので、確認しておいた方が良いでしょう。

13) 『急性期脳梗塞に対する血管内治療 エキスパートはこうしている!』(吉村紳一ほか, 日本医事新報社)

 主幹脳動脈閉塞による超急性期脳梗塞に対する血管内治療に関する参考書です。色々な病態や、いわゆるトラブルシューティングについて解説してあります。参考文献もチェックしておきましょう。

14) その他、ガイドラインや文献など

 他に、筆記試験準備に際して有用であったガイドライン・論文などもリストアップしておきます。

  • 未破裂脳動脈瘤の増大予想スコア'ELAPSS'について:簡潔にまとめてあるページがありました( https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=12019 )

  • 未破裂脳動脈瘤の破裂予測について'PHASES'や、'UCAS-Japan'といったスコア分類があります。ちょうどいい感じにまとめてある文献が2件ありました( https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcns/28/3/28_120/_pdf と,  https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcns/26/2/26_84/_pdf )。

  • 術中モニタリングについて:脳外科医以外だとピンとこないと思います。幸い、麻酔科医学会の公式HPに掲載されている診療指針の中にMEPについてのガイドラインがあり、勉強になりました( https://anesth.or.jp/users/person/guide_line )。

  • いわゆるPowersのstage分類や脳の核医学検査結果の解釈について:こうした項目も、脳外科医・脳神経内科医以外だと理解が難しいように思われます。幸い、脳虚血によって生じる脳の代謝や血管等の変化に関するstage分類や, 脳の核医学検査結果の解釈について簡潔にまとまった文献があり、非常に助かりました( https://www.rinshokaku.com/contents/pdf/sec8/10.pdf )。

  • 放射線医学的用語の定義について:英語ですが、'Radiopaedia' ( https://radiopaedia.org/?lang=us )で検索すると、定義などが理解でき非常に役に立ちました。

  • 頸動脈エコーについて:これも脳外科医・脳神経内科医以外ではほとんど触れる機会がないかもしれません。日本超音波医学会に指針が掲載されています( https://www.jsum.or.jp/committee/diagnostic/diagnostic.html )。


 他にも参考にした文献(論文など)はあるんですが、ぶっちゃけた話、書き出したらキリがないので、次回以降に新しい記事で紹介するか, もしくはこの記事に追記していく形にしようと思います。
 私自身も忙しいので、この記事の続編を書くか否かすらまだ決めていないし, 今後の内容もまだ全然考えておりません。ただ私のように、脳外科専門医以外の医者がJSNETに挑戦する際に助けになるような発信はしていきたいなと思っていますので、今後ともどうか宜しくお願い申し上げます。

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