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8時間目 土地利用の変更はどのような議論を引き起こすのか? ②



サッカーワールドカップやリオオリンピックは、ファヴェーラの人々にどのような影響を与えたのか?

(0) 舞台:リオデジャネイロについて

リオデジャネイロとは、ブラジルの中でも南の場所、サウスゾーンに位置する都市だ。かつてブラジルの首都であったリオは中南米有数の経済都市である一方で、世界遺産リストにも登録されるその美しい景観とカーニバルなどの独特の文化を持つ国内最大の観光都市でもある。

リオデジャネイロの場所 Google mapsより

この都市では格差社会がひどく、あらゆる場所にファべーラ(スラム)が形成されている。世界平和統一家庭連合ブラジルコルンバ支部(不明)によると国民の60%もの人々が、その所得が国民平均所得の2分の1にも満たない貧困層に属しており、さらには、毎月最低賃金(70ドル程度)の半分以下の収入で生活している極度の貧困者数は、国民の32.1%に相当する5400万人にのぼるといわれている。

ファべーラの位置(AFP BB Newsより)

貧困層が暮らすファべーラでは治安が悪く、麻薬密売を行うギャングの巣窟となっており、警官との銃撃戦が繰り広げられることもしばしば。

また住宅的な特徴としては、崖などの普通住めない場所に住宅を形成しているところだ。

※ファべーラは地名のことでなくリオのスラム全体をさしていることをお忘れなく。

ファべーラの住宅立地(HEAPS 2016より)

(1) 事件はどこで起きたのか?

事件はそのファべーラと呼ばれるスラム街で起こった。
ファべーラはリオデジャネイロが注目されるのとは裏腹に、政府自身も非公式の町としており、物理的な壁をつくったりして遮断している。

ファべーラとの境界壁(Vox 2016より)

こうすることで、リオは経済的に豊かな部分しか見えなくなり、リオへの訪問者にいい印象を与えることができるのだ。

そしてついに事件が起こる。事件の始まりは2016年あたりだった。この年はちょうどリオオリンピックが開催されるため、政府や企業などさまざまな人がオリンピックのために開発を進めていた。
【①バス路線の変更】
ノースゾーン(スラムが多く形成される場所)からサウスゾーン(オリンピック開催地あたり)に行くバスが廃線となった。これはスラムに住む人々(黒人・貧しい人・裸足の人)がサウスゾーンへ来ないようにさせ、都市をきれいに見せるためである。

廃線となったバスの例(Vox 2016より)

しかしこれはまだ序章に過ぎなかった。

(2) リオオリンピックやサッカーワールドカップでどのくらいの人々がファヴェーラから追い出されたのか?

【ヴィラ・アウトドローモでの立ち退き】
サウスゾーンの海岸近くにバーラという地域がある。ここがオリンピック・パークの開発地である。
オリンピック・パークの建設場所の近くに、ヴィラ・アウトドモーロというファべーラがある。600世帯ほどのコミュニティでファべーラといっても比較的安全で、麻薬やギャングなどがない、住みやすい場所であった。

バーラとヴィラ・アウトドローモの関係(Vox 2016より)
バーラとヴィラ・アウトドローモの関係(Vox 2016より)

しかしリオオリンピック開催にあたって建設されるオリンピック・パークのために、市は立ち退きを命じた。建設予定地に入っているわけではないが、近くにあることで、景観などが失わるため、市はオリンピック・パーク付近のコミュニティを立ち退かせ、人の目に届かない場所に公営住宅地を建てた。

公営住宅地の場所

しかしヴィラ・アウトドローモの住人はそうはいかなかった。
彼らは今の住みやすい環境を手放したくなく、家を守るために政府の命令を拒否したのだ。
そのため政府は強制的な取り壊しを許可し、立ち退きを強制させた。
これによりヴィラ・アウトドモーロの600世帯、リオ全体では少なくとも77200人の人々が住む場所を失ったといわれている。

(3) (2)に関して、利害関係のある人や組織・企業は何ですか?また、それぞれの立場の人はなぜそれを行ったのか?

ここで先に利害関係のある人々を紹介する。

この2人は言わずもがなの富裕層。よってこの開発にはもちろん低所得の人々について触れていない。そのため彼らの政策としては、住民を立ち退かせて、訪問者にいい印象を与えるものである。

オリンピック・パークの計画をするカルバリョ氏、パエス氏(Vox 2016より)

この出来事を相関図に当てはめるとこのようになる。武力による強制は裁判所からの許可などを得る必要があるため、許可をしてこの行動を起こした。

相関図

 (5) Vila Autódromoではどのようなことが起こったのか?  

結果、ヴィラ・アウトドモーロでは、住民対政府の住居をかけた争いが行われた。以下はその写真たちだ。

武力行使による立ち退き
               争いによってけがを負う人


バーラの現在(Google earthより)

(6) オリンピック終了後のブラジルはどうなったのか?

さてこのような犠牲をとってでも作ったオリンピックの開催地は、現在結果的にどのようなことになっているのか、本当に「新しいリオ」「エリート向けの都市」となったのか見てみよう。
結論からいうと、オリンピック後ブラジルは、過去最高の犯罪率を起こしたり、多額の負債を抱えることとなった。
ESPN(2017)によると当時建設された27会場のうち12施設は放置されており、オリンピック・パークについては閉鎖され、当時の活気はなにも残っていない。これらの維持費だけで1400万ドルの費用がかかるため、リオ政府はこれを完全に放置したのだ。また選手村を構成していた31棟のタワーは高級マンションに改装される予定であったが、現在ほとんど空き家となっている。この低所得者が多い街に、買い手は見つからないのだろう。
結果としてリオ2016組織委員会は債権者に対し依然として4000万ドルの負債を抱えている。

リオオリンピックの水泳競技会場(ESPN 2017より)

犯罪率については2017年路上強盗は48%、暴行は21%増加し、過去最高の犯罪率となった。理由としてはリオ州のは公務員に対して給料を期日通り支払うことができていなく、ストライキ的な意味合いが込められているのだろう。

リオとブラジルに残されたのは腐敗、負債、そして破られた約束であったのだ。

(7) リオオリンピックは、どの程度ブラジル国民のためになったと考えるか?

結局このオリンピックはブラジル国民の新しい豊かな街を形成されることはなく、どちらかといえば悪い影響の方が大きかったといえるだろう。
オリンピックによる新しいバス路線や施設は富裕層向けのもので、利益を得た人も少数であったと考えられる。
果たしてオリンピックの目的とは、それを考えられるようなものが今回の出来事であったといえる。


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