いまこそマキシムする愉しみ
これは饗宴という雑誌に載っていた記事。フランスのパリにある、マキシムという老舗レストランに食べに行ったドキュメント記事を紹介します。
面白い作りをしていて、タイムラインがありまるで台本でも読んでいるかのように始まります。
見田● 定刻通り、「マキシム」の前に車が着き、赤い傘、赤に金モールのお仕着せ姿のドアマンに迎えられて、まず玄関口に入りました。 8時
8時から始まるこの記事は
見田●うん決まりましたね。シェリーを舐めながら。。。
ー 料理を注文 ー 8時16分54秒
見田●フイユテを焼くのに20分かかるということですから、こうやって20分過ごしているわけね。少し中を見てみましょう。
山本●今、ボーイが十人見えるね。そしてもう一組、また日本人が入ってきた。やっぱり、きょうは日本人デーだ。
佐原●日本人は始めるのが早いから、最初は目立つんですよ。
とメニューを決めるのに16分54秒
このまま3人の会話劇のようなものはどんどん進み
見田●ソムリエが来て、ブドウをまず試し注ぎです。もう一人にマキシム・サラダを置きました。白ブドウを注ぎました。 8時42分33秒
山本●マキシム・サラダは、アリコベールとアルティショーとフォアグラだな。全く一品分ぐらいのボリュームがありますな。
食事は進んでいきます。
見田●サービスに金を払うわけだ。
佐原●そう、一皿五十フランかもしれないけど、そうやって出してもらうということに金を払う。
山本●だから、その値打ちを認めるか認めないかということですよね。
見田●そうやって金を払う人間がいかに多いか、ということでしょう。だからサービスがいかに楽しみかということ。また見まわりに来ました。 8時58分30秒
山本●日本の場合、サービスはされないほうがいいと思っているところがありますね。ほっといてくれればいいという。。。
サービスの話が盛り上がり
見田●あ、ヴァイオリンが来ましたね。 9時55分29秒
佐原●目の前でやられちゃうと、困っちゃうんですよね。
見田●あそこの男女に話しかけてますな。日本人の男とプラチナ・ブロンドの女性だ。やはり、よこしまなレストランだな。
嫋々と弾くなあ。
食後もマキシムを観察し。
見田●勘定書を持ってきました。千三百五十フラン。 10時37分25秒
佐原●ドアマンに十フランやったし…。
見田●まあ、一人五百ですね…。最後に入ってきた隣の客は、いま注文している。
と入ってから出るまでの2時間45分の会話が克明に記録されています。
料理写真がないのもすごい潔い、店員、内装、お客さんの観察が面白い。
コロナ禍でレストランに行くことが難しくなってきたいま、「いまこそマキシムする愉しみ」というタイトルがなんだか沁みる。
この本が出たのは1981年景気が上昇していて、グルメブームの直前という感じでしょうか。バブル景気まではいかない、グルメブームの火付け役「美味しんぼ」(1983年)の手前。イタメシという呼び方もまだらしい。
でもこんな時代になんとも骨太な食の雑誌、饗宴です。
この記事には冒頭にこんな一文があります。
「レストランで食事をする」ことの本当の愉しさを汲みとっていただければ・・・
このマキシムの記事は、ライブ感があって、美味しいだけじゃない面白さが詰まっています。レストランという空間、場所、人、そういう楽しみを紹介しているんですよね。
いまコロナ禍でいろいろと思うことはあるんですが
もしかしたらレストランの存在意義とかも変わってくるかもしれない。
美味しいものを食べるためのベストな場所はレストランだと思っていたのですが。
最近はいろいろな食材もネットで手に入るし、調理法も情報が入ってきます。
有名料理人がyoutubeでレシピ動画を紹介してくれるし
セミプロというか家で趣味的に料理をする人のレベルが確実にあがっていると思うんですよ。
採算を合わせるとか経営しないといけないレストランよりも
もしかしたら家の料理のほうが自由で足枷がないというか、美味しいご飯を作れる環境かもしれないと思っちゃいました。
するとレストランってなんだったんだろう?と見直す時かもしれません。
美味しいものを食べるのが目的なのか?
饗宴にはこう書いてありました。
世に「食べものガイド」はいろいろあるが、おしなべて「味」について云々のものばかり。
この批評欄のポイントは、料理店で食事をする場合、味そのもののおいしさは勿論であるが、店の場所、外観、内装、食器などから、従業員のサービス、対応ぶりまで、一つのテーブルをとりまく雰囲気を総合的にみた「幸せ」度が批評の基準である。
何を食べたら幸せになれて、不幸せなのか。
生産者も、料理人も、食べるひとも、みんな楽しくないと幸せな食事にならないよなと思うし。
完璧な食事を食べるのが幸せか?鮮度がよければ幸せか?それだけでもないよなと思います。
幸せな場づくりがこれからのレストラン。幸せな場づくりはサービス、料理を受け手として食べるだけじゃなくてもっと、双方向な気もするし。。。
これからのレストランは美味しいものをもとめる場所じゃなくなるかも。
美味しいものは家で採算度外視で食べる!レストランは幸せに楽しくなれる場所!という棲み分けいいかもしれない。
ちなみに饗宴は「たのしい」を愉しいという漢字を使ってました
あまり違いはないそうですが、変換するときに言葉の意味をみたら
食物などが十分にあって快い。
ですって。