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小説『ホームレス』第二回

ホームレスの男は自分の名前を教えなかった。西園寺は、一緒に暮らすなら名前くらい知らないと、と思って何度か聞いたのだが、俺の名前なんか聞いても仕方ないだろう、と取り合わなかった。じゃあ何と呼んだらいいのかと聞くと、何でもいいと言う。仕方ないのでオジサンと最初は呼んでいたが、共同生活が長くなるにつれ、オッサンに省略されて行った。
 オッサンの方は西園寺の事を、オイとかコラとかそういう言葉で呼ぶことが多かった。僕の名前は西園寺充です、と申告した事もあったが、オッサンが西園寺をその名前で呼ぶことはなかった。
 二人は朝起きると、まず公園のトイレの脇にある洗面所で顔を洗った。まだ六時を少し過ぎたばかりで人影は少ない。西園寺は最初のうちそんなに早くに起きる事が出来なかったし、オッサンも西園寺に強要はしなかった。出かけるあてがある訳でもなく、いつ起きても構わない筈であるが、オッサンの生活習慣に合わせているうちに自然と朝早く起きる様になっていった。夜も遅くまで起きている理由はない。十時を過ぎて辺りが静かになり、それぞれに眠くなった頃、自然と寝床に入る様になった。寝床というのは地面の上に他の部分よりも少し厚めに段ボールを敷いて、その上に毛布を被せたものだ。オッサンは西園寺が寝泊まりするようになると、いつの間にか西園寺用の寝床を作ってくれた。これも最初のうちは中々寝つけない寝心地であったが、オッサンが言う通り人間は馴れるものだ。ネットカフェに寝泊まりしていた時よりも、自宅のベッドの中で朝が来るまで不眠症に苦しんでいた時よりも、はるかに寝つきは良くなった。そして朝が来ると、公園に住んでいるカラスや雀が鳴き出し、目覚まし代わりとなってくれた。

公園は時間帯によって様々な表情を見せた。朝、顔を洗った後に、段ボールハウスの中で固くなってしまった身体を青空の下で伸ばしていると、どこからともなく白い服装を来た集団が現れる。制服という訳ではないようだが、首に巻いたタオル以外は皆、同じ体操着を着ていた。若くても六十代という感じの高齢者の集団は、一番広い芝の上に集まると、リーダーらしき男が持ってきたラジカセから流れる音楽に合わせて、ラジオ体操を始める。「あれは一体何の集まりですか」とオッサンに聞いても、知らんと答えるだけだ。オッサンは、公園内の他人の事には殆ど関心がないのだ。いや、あえて関心を持たない様にしているようだった。と言いつつも、時々、ラジオから流れる音楽に合わせて自分も身体を動かしたりしていた。
 そんな朝の儀式が終わると食料の調達だ。ごみ収集車が来る前に集積場を渡り歩く。家庭用のゴミにはたいしたものは入っていない。狙い目はやはり食料品を売っているスーパーかコンビニ、レストランや喫茶店などだ。最近はごみ捨て場も鍵のかかった敷地内にある事が多い。特に住宅街は管理が厳しく、やりづらい。繁華街はそういう意味では狙い目だが、当然競争率は高くなるし、朝帰りの酔っぱらいや暇なホストやキャバクラ嬢の目がある。そんな事を気にしていてはホームレスはやっていられないが、たまに色々とちょっかいを出して来る奴がいる。バーの裏手でゴミを漁っていた腰の曲がったごま塩頭のホームレスが、仕事帰りのホスト連中に袋叩きにあって数日後に死んだ、という話をオッサンが淡々とした口調で披露してくれた。
 ごみ箱あさりで成果がない時、オッサンはちょっとした手を使った。オープンカフェなどの様に、野外に食事の場所が設置されている店を狙うのだ。そういう場所を利用するのは女性かカップルが多い。そして女性の多くは注文した物を全て食べない。そこを狙って、「お済みのお皿、下げさせて頂きます」と言って、残り物を頂くのだ。勿論、ホームレスだと分かる格好では駄目だ。オッサンは、そういう時に着るためのジャケットとワイシャツそして蝶ネクタイを持っていた。
「この手口はお前の方が怪しまれないかもな。今度はお前がやってみろよ」
 と言われて西園寺も挑戦した。場所は西園寺たちがねぐらにしている公園から地下鉄で二駅ほど離れた場所にある別の公園に隣接したオープンカフェである。この手の事をやる時、オッサンはねぐらから少し離れた場所を選んだ。ごみ箱あさりとは少し違ったので、警察沙汰になる可能性があった。そんな時に、なるべく犯人を特定されない様に、オッサンなり考えていたのだ。
 そのカフェは、店舗の半分がオープンで残り半分はインドアとなっていた。オープンカフェの部分は表通りから二段ほどの階段を上がるとそのまま座れるようになっている。カフェの奥はオフィスビルにつながっていて、そちらにも入り口があった。二カ所に入り口があるというのが、この店の良いところなんだとオッサンは言っていた。確かに店員の注意が両方に向けられ散漫になる時がある。そこが狙い目なのだ。
 西園寺は、昼休みの時間が近くなると、カフェを遠望出来る場所に身を隠した。後ろに立ったオッサンは、ポケットから小型の双眼鏡を取り出し、客を観察し始めた。何でも持ってるんですねえ、と呆れながらオッサンの双眼鏡に触ろうとすると、「お、さっそく来たぞ」とオッサンの顔が輝いた。見ると近くのオフィスから来たOLらしき若い女性の二人組が、一番外側の席に座った。
「よし、特等席に座ったぞ。店から一番遠い席だ。あれならいけるぞ」
 西園寺は改めてオッサンと段取りを確認し、二人のOLが食事を始めるのを待った。片方がパスタセット、もう片方がサンドウィッチのセットを頼んだ。パスタの女はよほど空腹だったらしく、料理が運ばれると休む暇もなく、付け合わせのサラダも含めてさっさと食べ終えてしまった。サンドウィッチの方は、相手が食べている間一方的にしゃべり続けるか、携帯電話の着信をチェックしその返信を打つかで、あまり食事は進まなかった。「あら、食べないの?」とパスタの女が問いかけると、「あんまり食欲なくて。あたしの分も食べる?」と答えるのが聞こえた。
「よし、今だ、行け!」
「いや、でも、まだ食べ終わってないですよ」
「ばか、食べ終わってからじゃ、俺たちの分が残らねえじゃねえか」
「あ、そうか」
 西園寺は慌てて隠し持っていたトレイを手にオープンカフェに乗り込んだ。店員が屋内の接客に気を取られているのを確認すると、素早く二人のテーブルに近づく。
「お客様、お済みのお皿お下げしましょうか?」
 緊張のあまり声がうわずっていた。パスタの女はもう一人の女が残したサンドウィッチに手をかけようか迷っている所だったが、西園寺の問いかけが功を奏したのか、手を引っ込めて「あ、はい、下げて下さい」と気取った口調で答えた。残った皿をトレイに乗せて引き換えそうとした時、「コーヒーのお代わりもらえますか」とサンドウィッチの女が言った。西園寺は反射的に「かしこまりました」と答えしまい、成り行き上、そのまま店内に足を向けた。「なにやってんだ、あいつ」オッサンはイライラと見ていた。このままではまずいと思った瞬間、屋内にいた店員が西園寺に気づいた。店員は怪訝な表情で外へ出てきた。トレイの上の皿がカタカタと音を立てるのを聞きながら、西園寺は凍りついた様に立っていた。
「ちょっと、あんた誰……」と店員が声をかけた瞬間、オッサンの声が聞こえた。
「誰か、あいつをつかまえてくれ!」
 オッサンはたまたま通り掛かったジョギングの男を指さして叫んだ。男はイヤフォンで音楽を聞いていて、無反応なまま走り去った。オッサンの声に店員が気を取られている間に、西園寺は持っていたトレイを空いているテーブルの上に放り投げる様にして、逃げ出した。「バカ、何でおいてくるんだ!」オッサンは叫びながらテーブルの方へ突進した。ちょうど西園寺とオッサンが逆の方へ走る事となり、店員はどちらに何を言っていいのか分からず右往左往した。その間にオッサンはテーブルの上のサンドウィッチをかっさらい、二人は何とか逃げ延びた。そして、無事に食事にありついた。
こうやって手に入れた食料はごみ箱をあさって手に入れる物より、味も鮮度も数段上だった。勿論、捕まって警察に突き出されるリスクはある。何事もハイリスク・ハイリターンという訳だ。

公園には時々、ボランティア団体が焚き出しにやって来る。公園の一角にテーブルを並べて、夏にはカレー冬には豚汁などを作ってくれる。そういう日は早くからホームレスが列を作る。この公園だけではなく、他の場所からやってきたホームレスたちも混じっている。皆、この手の情報には詳しく、今日はどこどこの広場で焚き出しがあるとか、どこそこの焚き出しは地域住民の反対にあって中止になっちまったとか、情報交換をしていた。
オッサンはこういう列に並ぶことがなかった。何故かと理由を聞いてみるが、
「最初の頃は俺も並んでいたんだ。食料を手に入れる方法もあんまり知らなかったからな。けどなあ、キリスト教がらみの団体だと、配る前に牧師かなんかが来て説教を聞かされるんだ。イエスが何を言ったとか、言わなかったとか……腹ぺこの連中の前に美味そうな料理の匂いを散々振りまいておいて、食べたければ説教を聞けって、そんな事、イエス様はお許しになるのかね?」
「でも、それを聞くだけでタダで食事がもらえるんでしょ? だったら、それくらい良いじゃないですか」
「それに、親父を思い出すんだよなあ……」
「親父さん?」
「うちの親父、牧師だったんだ。だから聖書の一節を聞かされたりすると、思い出したくもない親父の事を思い出してな……」
 何故、親父さんの事を思い出したくないのか、オッサンは語らなかった。
「ここらにボランティアに来るような若造の牧師よりは、俺の方がよっぽど聖書を読んでいるさ。あんなやつらの説教なんて聞けるかよ」と言って自嘲的に笑うだけだった。
 宗教がらみではない人たちの焚き出しの時にも、オッサンは列に並ばなかった。ホームレスになったばかりの頃ならともかく、今ではちゃんと食料を手に入れる術を知っているから自分には必要ない、というのがオッサンの言い分だった。

それ以外にもオッサンのこだわりは多かった。毎日顔を洗い、歯を磨き、洗濯もこまめにやった。服はよれよれであちこち綻んでいたが、ホームレス特有の匂いとは無縁だった。その分、他のホームレスたちに対する態度は厳しかった。あまりにも臭いホームレスが近づいて来ると、「匂いが移るからあんまりこっちに来るんじゃねえよ」と追い返した。
ホームレスも集団になると多少は序列めいたものが出来て来る。取りまとめ役を買って出る人もいて、公園との交渉などに当たったりもする。少し前までその役は塩爺と呼ばれる初老の男がやっていた。以前大臣をやっていた政治家に似ているらしいが、そのせいとう言う訳でもないが人当たりも良く、取りまとめ役にはぴったりだった。
 公園はオフィス街にあったので、花見のシーズンになると近くにオフィスを構える会社が新入社員歓迎も兼ねて宴会を開く。入社数年の先輩社員が新人を連れて場所取りのためにブルーシートを敷きに来るのだ。それまで公園を占拠していたホームレスたちの姿は、その頃になるといつのまにか姿を消す。そして、花見が終わると再び戻って来て来る。これはホームレスたちと公園側が、暗黙のうちに決めた協定の様なものだった。
 
ホームレスが公園に寝泊まりしている事は、公園側にとっては当然、避けるべき事態である。何度も退去勧告をし、強制的に排除しようとした事もあったが、ホームレスは一向に消える様子はなかった。二十一世紀に入り、日本の景気後退が日常の出来事になってしまうと、社会の風潮としてもホームレスを常にそこにある景色の様なものとして受け入れる様になっていった。公園としても、何か問題が起きない限り、ホームレスの生活に口は出さなくなった。その代わり、公園が公園として機能する事が必要なとき、つまりは春の花見や、夏の花火大会、秋の紅葉狩りなどのシーズンには、ホームレスは自発的に姿を消すか、目立たない様にする事になったのだ。
 そんな事の為に、取りまとめ役の塩爺はホームレスにも公園側にも都合のいい存在だった。しかし、その塩爺がある時から姿を見せなくなった。別の公園へ移ったという者もいたし、家族が見つけて引き取って行ったという者もいた。どこかで野垂れ死んだんだと断言する者もいた。いずれにせよホームレスが突然姿を消すなんて事は良くあることだったので、しばらくすると誰も話題にしなくなった。
 困ったのは公園側の人間で、何か交渉するにも誰と話をしたら良いか判らなくなった。それである時、オッサンの所へ公園の管理人の一人が取りまとめ役を頼みに来た。
「何で俺なんだ。他にも沢山いるじゃねえか」
 オッサンは不機嫌そうに答えた。
「あんたは前に社長とかやっていたんだろ。だったら人をまとめるのも上手いんじゃないかと思って」
公園の管理人が、何故オッサンの前歴を知っているのか、西園寺は不思議に思った。後で聞いたら何かの揉め事の時に、「俺はこう見えても昔は社長をやっていたんだ」と啖呵を切った事があるらしい。それ以来、オッサンの事を影で「社長さん」と呼ぶ管理人もいた。勿論、オッサンの言葉を信じたわけではなく、大ぼら吹きをからかう為である。
「いいかい管理人さん、あんたは知らないかもしれないけど、社長っていうのは結構金になるんだよ。一銭にもならないのに、他人の面倒なんか見れるかよ」
「まあ、そう言わずに頼むよ」
「大体、取りまとめ訳なんていらないだろう。皆、自分勝手に生きているんだ。ホームレスになって良いことがあるとすれば、それくらいだ。だから放っておけばいいんだよ。そのうち前の爺さんみたいに、自分が何とかしようとか言い出す、酔狂に奴が現れるかもしないしな」
 オッサンはそう言って、管理人を追い払った。西園寺は、何だか勿体ない気がした。取りまとめ訳をやれば、何か役得の様なものがあるかもしれないし、わざわざ管理人が頼みに来るって事は、何だか少し誇らしい気分がしたからだ。
「だったらお前がやりたいって手を挙げたらいいじゃないか。俺は、興味がない」
 オッサンはそう言って背中を向けるだけだった。
結局、取りまとめ役をやる人間はその後も現れなかった。もっとも、暫くしてその必要もなくなった。ある時、役所の人間が大挙して現れ、段ボールハウスの多くは撤去された。その場所に新しい遊戯施設を作る事になったらしい。遊戯施設と言っても子供向けの物ではなく、公園に出入りする大人のためだった。
 毎朝現れるラジオ体操の集団の他にも、ジョギングやトレーニングの為に公園を訪れる人は多い。昼休みになると運動不足解消のためにストレッチを始めるサラリーマンもいる。、近くに大きなホテルが建っているので、そこに宿泊している外国人たちが全身トレーニングウェア姿で現れる事もあった。
 そういう人たちがストレッチをやったり腹筋や背筋を鍛えたりするために使う、奇妙な形をした鉄製の器具が、今まで段ボールハウスで埋めつくされていた場所に建設された。それがどの程度役に立ち、どの程度実際に理由されるかは分からないが、とにかく分かりやすい口実が出来たので、管理人も役所の人たちも躊躇う事なく、ホームレスたちを追い出し、段ボールハウスを撤去した。
 何故かオッサンの段ボールハウスは撤去されなかった。遊戯施設を立てる場所とは反対側に建っていたお蔭だか、どうやらそれだけが理由ではない様だった。その工事が始まってしばらくして、きちんとスーツを着た三十代くらいの真面目そうな男がオッサンの段ボールハウスを訪れたのだ。
「おう係長、工事始まったな」
 オッサンは男の顔を見ると、そう言って軽く手をあげた。
「あ、はい、それで、もし良かったら飲んでもらおうと思って……」
 係長と呼ばれた途その男は持ってきた一升瓶を差し出した。
「何だ日本酒かよ。俺はワイン党なんだけどなあ……」
「それは知ってるんですけど、実はうちの実家が造り酒屋をやっていまして、先日、送って来たんです」
「何だ、もらいもんか。ま、役人が自腹でだれかに物をあげるなんて事は、ありえねえもんな」
「あ、でも、とても美味しいと評判なんです」
「まあ、せっかく持って来てくれたんだから、ありがたく貰っておくよ。どうだ? ついでに一杯飲んで行かないか」
「あ、いえ、まだ仕事中なんで……それに酒は苦手なんです」
「造り酒屋の息子が酒を飲めないのか。まったく親不孝な奴だなあ」
 男はなんどもペコペコと頭を下げながら立ち去った。その夜、その酒を飲みながらオッサンが語った事には、男は役所の人間でこの公園を担当している部署の係長なのだそうだ。ホームレスたちに、ここから立ち退いてリハビリ施設に移ってもらうのが彼の仕事だった。何度も通いつめてホームレスを一人一人説得にあたったのだが、ある時、二の腕から背中にかけて彫り物があるちょっと強面の男に絡まれた事があった。彫り物といってもいわゆる筋彫りの段階で完成はしていなかった。
「お前、俺を誰だと思ってるんだ。今じゃこんな所に住んでるが、俺にはその筋の知り合いも多いんだぜ。その俺にここを出て行けってのは、それなりの覚悟があって言ってるんだろうな」
 男は危ない評判のある組織の名前を出し、暑くもないのにシャツの袖をまくり上げて、チラチラと彫り物を見せながら係長を追い詰めた。よく考えてみれば、そんな組織に覚えがめでたい男が、こんな場所でホームレスをやっている訳もないのだが、そういう乱暴な言葉や態度にまったく免疫がないタイプの係長は、顔面蒼白になって後ずさり、足をもつれさせ、そのまま後ろに倒れた。倒れた場所が悪かった。いや良かったというべきか。ちょうど食事の用意が終わり、今まさに食べ始めようとしていたオッサンのテーブルの上に係長は倒れたのだ。テーブルはひっくり返り、オッサンの食事は台無しになった。それから後に起きたオッサンの武勇伝は、そのまま信用していいのか分からないが、とにかくオッサンはその彫り物をしたヤクザまがいの男を黙らせてしまったらしい。
「あいつが名前を出したヤクザの事務所な、うちの会社の近くにあったんだよ。それで何度かツアーを企画した事があってね。知ってる名前もいたんで、あんたの事を聞いてみようか、なんて言ったらすっかりびびっちまってな……それ以来、あの係長の奴、すっかりなついちまって、時々、ここに顔を出すようになったんだよ。ある時なんか仕事の悩みを相談されちまって……ああいう連中もああ見えて結構悩んでいるだな。選挙があって政治家が変わったりすると、その度にまったく違う事言われて、胃が痛くなったりするらしい。まあ、政治家っていうのはヤクザな連中とあんまり変わらんからな。あの係長みたいなインテリ坊やには付き合いづらい連中なんだろうな」
 係長がオッサンに人生相談を持ちかけたくなるのは、西園寺にも分からないでもなかった。西園寺自身、一緒に暮らしていて、折に触れ自分の悩みを相談したりする様になった。何か有効な解決策を提示してくれる訳ではない。ただ話を聞いてくれるだけである。時々、自分の若いころの自慢話になる。それは聞いていてうんざりしたが、最後には「ま、でも今はホームレスだからな……悩んでも、努力しても、サボっても、人生たいして変わらないって事さ。飯でも調達しに行くか……」などと言って笑うだけである。

つづく。


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