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スイングバイ! 第2路:玉子だって焼ける大地

 最初の目的地は中国の北京にした。
なぜ中国なのか、なぜ北京なのか。そこにはマリアナ海溝より深い理由が存在する。訳ではない。ただ、ぼんやりではあるが、北京にしようと決めた理由のようなものはある。
 旅のルートとして、日本から近い国から徐々に遠ざかって、行けるところまで行ってみたかったこと。北京に住んでいる友人に会いたかったこと。そして、何よりあのニュースを見たことが決め手だった。
 旅に出ることを決め、3年間働いた大阪の会社を辞めた。先輩に退職理由を正直に話した所、「織田はドリーマーやなー」と言われて、その後退職まであだ名がドリーマーとなった。
 そのまま、ドリーマーな僕はすぐに出発しても良かったのだけれど、山梨の実家に戻りぬくぬく過ごしていたら、気がつくと3ヶ月経ち7月になっていた。完全にキッカケを失ってしまった。
 そんな時にふと見たニュースで北京の様子が映されていた。2015年は世界中でラニーニャだか、エルニーニョだか、ハラペーニョだかが原因で異常気象と呼べるほどの猛暑だった。
 北京でも記録的な猛暑であることには変わりなかったのだが、ある集団がそんな猛暑を逆手にとって利用し、道路に鉄板を置いて目玉焼きを作っていた。
 太陽の熱でジュージュー焼ける目玉焼き、それを楽しそうに眺めている大人達。そんなものを見ている内に、なんだか、そのデタラメな感じに惹かれてしまった。猛暑の北京を体感してみたくなった。
 ゴロンと横たえていた体勢から立ち上がった後、僕の行動は早かった。ザックに荷物をまとめて、飛行機と宿泊先を予約し、最短で北京に飛んだ。
 仕事を辞め、バックパッカーになって世界中を旅したいと言うピーターパン症候群《シンドローム》に振り切った提案をしても両親は受け入れてくれ、「しっかりな」と笑って送り出してくれた。感謝してもしきれない。

 日本の成田空港から、中国の北京首都国際空港まで、飛行機でおよそ3時間半。海外旅行の最初のハードル的存在である時差も1時間程度なので、ほとんど感じずに済んだ。
しかし、時差なんてどうでも良いぐらい暑い。
ひたすらに暑い。そりゃ玉子の1つや2つ焼きたくなるか(ならないか)
 湿度は日本よりいくらかマシかも知れないが、日射しが刺すようで痛い。
 空港からゲストハウスの最寄り駅である安定門《アンディンメン》駅まで、比較的簡単に来れた。
 ただゲストハウスに着くまでに、気になることがたくさんあった。
 駅では空港と同じように係員がいて、持ち物検査をされ金属探知機を通ったし、スモッグ対策かガスマスクをつけてランニングをしている人もいたし、日本では絶対許可されないであろう、国土交通省大激怒みたいな足に挟んで移動するタイプの電動一輪車みたいなモノを何度も見かけた。
 この街は間違い探しの様に、おかしな所がたくさんあった。
 いや、所変われば品変わると言う様に、おかしいのは僕の方なのだ。その土地その土地の常識や日常があって、郷に行っては郷に従えという姿勢や謙虚さが旅人には必要なのかもしれない。

 道に迷いながらもどうにか予約したゲストハウスに到着した。
ホームユースホステル。ここはネットで調べて事前に予約していたのだが、なぜこのゲストハウスにしたかと言うと雰囲気が実家に似ていて非常に安心感に満ちていたからだ。と言うようなことはなくて、むしろ新大久保の路地裏のような、そこはかとなく危ない感じのする道に面しているちょっとヤバそうな宿だった。
 まぁ、とにかく安かったのでここに決めたのだ。
 しかし、実際はいってみるとバーが併設されたお洒落な造りで、スタッフは英語が通じて親切だった。Wi-Fiも利用できた。トイレは。。うん。トイレは見なかったことにしよう!
 ベッドに、入って眠りにつく前、僕は経験したことのないドキドキとワクワク、少しの不安を感じていた。
 いよいよ旅が始まるぞと。
 そう、とにもかくにも僕の旅がここ北京から本格的に始まることになった。

♯小説

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