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高学年女子の”暴言”を真に受けてはいけない

 小学校の教員時代、失敗したことや上手くいかなかったことは数知れないが、今回はそのうちの一つを紹介することにしたい。

 私の初めての小学校勤務は、学級担任ではなく特別教育支援員(発達障害のある児童の学習活動を支援する)がスタートだった。各クラスに支援対象の児童が1~2人ずついたため、複数のクラスに入ることになるのだが、その年4年生の初任者の担当するクラスが学級崩壊してしまった。

 学級崩壊すると、どんな児童でも言動が刺々しくなり、誰彼構わず攻撃的な態度を取るようになる。学校内で教員より立場の低い特別教育支援員など、格好のターゲットだ。一度、おとなしそうな女子児童に「どけ!」と言われ、唖然としたこともある。

 A子も、そんな児童の一人だった。本来はスポーツ万能でリーダー性もある子だが、彼女もやはり攻撃的な態度を取ることが多く、クラスに入った時だけでなく校内で私の顔を見る度に「きもーい!」と乱暴な言葉を浴びせてきた。あんまりしつこく言ってくるものだから、まだ経験の浅かった当時の私はまともに腹を立て、怒鳴りつけたこともある(今となっては恥ずかしい限りだ……)。

 その2年後。A子達は6年生になり、私は3年生担任に立場を変え、同じ学校に勤務していた。

 ある日、廊下を歩いていると「こんにちは!」と後ろから挨拶された。誰だろうと振り返ってみると、なんとA子だった。4年生の時には見たことのない、子どもらしい無邪気な笑顔で、そこに立っていた。最初は空耳か、人違いだと思った。まさか、あんなに反抗的だったA子が……

 この日以降も、A子は私に挨拶してくれるようになった。さらに、地区の陸上大会へ向けての練習の際、ソフトボール投げに出場する彼女とキャッチボールまですることになった。

 やがて迎えた卒業の日。私はA子に、「4年生の時に怒鳴ってしまってゴメンね」と謝った。彼女は「そんなことあったっけ?」と戸惑った反応だったが、私にとっては胸のつかえが取れた瞬間だった。

 その後、たくさんの児童と接する経験を経て、一つ分かったことがある。
 攻撃的な態度を取っていた4年生の時、A子は私を嫌っていたのではなく、単にかまって欲しかっただけだったのだと。

 高学年女子は、本当に嫌いな先生には、そもそも自分から話しかけるようなことはしない。こちらが声を掛けても無視して、陰口を言うものだ。

 後日、ある教育書に次のような文言があった。
 高学年女子は、教師を傷付けながら近づいてくる――まさにA子のことだった。彼女の心理状態を知っていれば、たとえ攻撃的な態度を取られても、もう少し違った余裕のある接し方ができていたのにと、今さらながら悔やまれる。

 高学年女子の”暴言”を真に受けてはいけない。A子を通じて学んだ、貴重な教訓である。

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