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第1章完/第8話 白熊家は『武家』だった?-父の一刀両断- 〜止まらぬ兄弟の軋轢〜
ピッ(テレビが消される音)
ガタッ、乱雑に置かれるリモコン。白熊家の食卓が地獄の食卓へと化す瞬間だ。
「おい、太志この通知表の成績はなんだ?お前はしっかり学校で勉強しているのか?」シーンとなったリビングに父の声が響く。
はい。と小さな声で太志は呟いた。私と、次兄、母は横目に静かにその様子を見ていた。見慣れた光景だが、こんなに恐ろしい時間は大人になった今でもない。
この日は2学期の終業式の日だった。父に通知表をみせる恒例の儀式なのだが、今回太志はすこぶる通知表の出来が悪かった。
父は、タバコに火をつけると、見開きの通知表をパラっとめくった。目を細める父の鋭い眼光が今だに脳裏に残っている。
父の気がすまない時は、そのまま太志は庭へ出されると、1時間以上反省させられる。寒い日も暑い日も一緒だ。太志は泣きもせず、ただただ唇を噛みながらじっと耐えて立っているだけだ。
次男や三男坊の私も通知表の出来はイマイチだったが、いつも父に期待されているのは太志であった。
ある時、中学校3年生の思春期の太志がおしゃれな髪型にして帰宅した。「太志兄さんそれは、なんという髪型なんですか?」正樹が興味を持ち太志に尋ねる。「これはアシメショートだぞ」ドヤ顔で応える太志。
その夜。
父が仕事から帰宅すると、開口一番に叫んだ。『なんだお前のその髪型は!?けしからん!」
せっかくおしゃれして女子にモテたかったであろう思春期の太志だが、なんとその直後父の手によって坊主にさせられたのだ。
白熊家では当時は3ミリの坊主かスポーツ刈りが暗黙の了解だった。もちろん次男や私も坊主である。太志はこの時も涙こそ流さなかったものの、これは相当悔しかったはずだ。
心の中は、涙の大雨だったであろう。涙の断髪式だ。太志にいじめられていた私だが、この時ばかりは太志に同情した。
太志が社会人になってからも事件は起こった。
未成年の誠を居酒屋に連れて行き、父が激怒したのだ。その日は両親が同窓会で、誠の夕飯がなかったため太志と正樹の飲み会の席に三男坊の誠も参加したのであった。(もちろんお酒は一口も飲んでいない)
「俺たちは、弟の飯がないから連れていっただけだ。何も悪くない!」
初めて太志と正樹が父に反論した。
兄2人が父に反抗したのは、産まれて初めてだ。
一体どうなるんだと心臓の鼓動が聞こえるくらいドキドキした。
深夜0時。庭で怒鳴り合いが繰り広げられ、どんどんヒートアップしていった。
母が、途中で、近隣に迷惑だと止めに入るが一度火がついた父は怒鳴るのをやめなかった。
誠も途中、だんだん自分を責めだし泣きながら「未成年なのに、ついていった俺が悪かったです。」と止めてみたものの、吹き飛ばされて終わってしまった。
結局、正樹は父からビンタ2発。太志は、庭から道路までの10発ほどくらって事件は収束した。
白熊家は表面的には普通の家族なのだが、歴史は闇深い。
太志は、兄弟の飲みの席でこう言っていた。
親は特にお前(誠)には甘いし、お前は大切に育てられた。と。
太志は、実際のところ、三男の私からみても、1番厳しく育てられて、怒られてきた。愛情不足になり、弟が憎たらしく幼少期からいじめていたのだ。誠コンプレックスなのだ。
対して誠は、太志だけ、親から投資を受け、学校に進学することができ、大人になった今でも結婚式代を工面してもらえたりと、なにかあれば他の兄弟よりも多額の資金を工面してもらえることへ不快感を抱いていた。
そして、幼少期から父と太志の恐怖で家が安らぎの場所ではなかった。太志からいじめられた恐怖心が今だに心の底に残っており、誠も大きな傷と太志コンプレックスを持っている。言っておくが、誠は甘やかされたわけではない。太志が怒られいるのをみて、それだけはしないでおこうと、怒られる回数が少なかっただけである。
互いに大人になっても打ち解けることのない、闇を抱えている。なんとも悲しいものだ。
一層のこと不良たちのように殴り合ったらわかりあえるのだろうか。
正樹が羨ましい。次男、正樹は一見中間管理職のように上から下から圧損されそうだが、1番何もなくて平凡に育つスポーツ少年だった。
まだまだ白熊家について話したいことはあるが、一旦はこの辺で。
次回からは第2章に入りたいと思います。
サラリーマンの苦悩を書いていきますので、よろしくお願いします。
-第8話 完-