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深夜の訪問者「ショートホラー」
僕は都市から離れた小さな村に引っ越してきたばかりだった。新しい生活を始めるために選んだ場所は、静かで美しい村だったけれど、周囲にはほとんど人がいなく、夜になると全くの暗闇に包まれる。引っ越し初日、少し怖いと思いながらも、新しい生活に胸が膨らんでいた。
その晩、僕は部屋の窓から星空を眺めていた。突然、外から足音が聞こえ始めた。最初は風の音か、何かの動物だろうと思ったが、足音はどんどん近づいてくる。僕の心臓が速く鼓動し始めた。
「誰かいるのか?」
そう思って耳を澄ましてみたが、足音は確かに、僕の家の方へ向かって歩いている。
しかし、外の暗闇の中でその人影ははっきりと見えなかった。僕は恐怖で震えながらも、そのまま窓を見つめた。
そうすると少しずつ影のような黒い塊がゆらゆらと近付いて来ていることが見えた。
あまりにも奇妙な動きに、僕は部屋の電気を消し、窓からそっと離れた。
だが、胸の中で何かがざわつく。
「見なければならないと、確認しなければと」
恐怖と好奇心が交錯し、再び窓の外の様子を見た。しかし、そこには誰もいなかった。あたりは静まり返り、影の姿も消えていた。
「あれは一体なんだったのか…」
勘違いだと自分に言い聞かせ寝室に戻った僕だが、その夜、再び奇妙な足音が聞こえてきた。今度は部屋の中からだ。僕は恐怖を感じ、体が硬直して動けなくなった。足音が、部屋の床に響いて、どんどん近づいてくる。その音が僕の耳元で明確に響いた。
「…み…た…」
耳元で囁かれるようなその声に、僕は思わず息を呑んだ。次第に、声は強くなり、そして明確に言った。
「みつけた」
僕は震えながらも部屋の電気を急いでつけたが
部屋の中には誰もいない。でも、床に見慣れない足跡が残されていた。見たことのない、長い指のようなものが踏みつけられた跡だ。その痕跡は僕の恐怖心をより一層押し寄せるものだった。
その足跡は僕が寝ていた間に、誰かが部屋を歩き回った証拠だった。
僕は思わず、部屋を出てその足跡をたどり始めた。恐怖に震えながらも、足音を追っていくと、足跡は階段を下り、リビングへと続いていた。
リビングにたどり着いたとき、目の前に奇妙なものを見つけた。それは、見覚えのない大きな鏡だった。どこから来たのか全くわからなかったが、その鏡の中には、僕自身の姿が映っていた。ただし、鏡の中で僕の背後に、顔のない人間が立っていた。
僕は息を呑んで、その鏡を見つめていた。その存在が、ゆっくりと僕に近づいてきている。恐ろしいことに、鏡の中のその影が、じっと僕を見つめながら口を開けた。
「やっと見つけたね…」
その瞬間、僕は背後から冷たい手が触れるのを感じ、振り返った。しかし、誰もいなかった。鏡の中の存在は、ゆっくりと僕に歩み寄りながら、囁くように言った。
「お前はもう、ここから出られない。」
その瞬間、鏡の中から、顔のない存在が一気に僕に迫ってきて、僕は引き寄せられるようにその鏡に引き込まれていった。
そして、朝が来ると、家の中には何も変わった様子はなかった。ただ、リビングの鏡の前には、僕の姿が映ることなく、ただ無機質な空間だけが広がっていた。