🌼「幸せ」のカタチ②

　俺はその頃、3人のダチとバイクに乗り回し、夜遊びに没頭していた。いつもの立ち入り禁止の川沿いでダベる時間は俺にとっての最高の時間だった。くだらない話をダラダラダラ、ケラケラケラ。それだけだ。

　そこへ2人、暗がりでよく見えにくかったのだが、背丈も顔もよく似た男性が、バイクの灯りに誘われるようにおそるおそる近づいて来る。

「あんだょ！おっさん！うせろや」

「あの、、この近くに住むものなんですが、バイクの音や話し声が気になって、、、すいませんがもう少しお静かにお願いできませんでしょうか。」

　暗がりから発するその声は細く、少し震えている。きっと恐怖との葛藤ゆえの行動だろう。

「あ？なんやこら。文句あるんか。どつき回すぞごらぁ。」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

　ひどく怯えた様子で、２人はその場を足早に離れていった。

「ダッサ！」「声かけてくんなやダルいのぉ」
　今思えばいわゆる、イキがった田舎のヤンキーだった俺たちは、声で自分を大きく見せることで、この場を牛耳っていた。

「なんか冷めたわ。そろそろ帰ろうぜ。」
リーダー的存在のまさが言ったその時、
「君たち！ここで何をしてるんだ！」
懐中電灯の灯りとハキハキした声、すぐに警察だと分かった。

俺たちはバイクから離れ、足場の悪い川沿いの道を夢中で走った。背の高いススキの葉と川の流れる音に紛れて俺たちはうまく身を隠すことができた。

「あいつら警察よんだんか。まじだるいわ。」最小限のボリュームで俺は言った。

「次会ったらマジ殺す。てか、中井はどこや？」
「え、知らんよ。どっか隠れてるんやろ。」

　　　　M M M  ガサガサガサ　M M M

「こら、もう逃げんな！！とまれ！」
　中井は、運悪く警察に捕まり、必死に逃げようと抵抗している。

　まさと俺は、とっさに隠れていた草むらから飛び出し、中井の元へ走った。無我夢中だった。俺は警察の背中から飛びつき中井から離そうと必死に引っ張った。でも警察は体が大きく全く動かない。それでも必死で引っ張った。

　　「ゴジュッ」

　ふと、形容し難い、この場において絶対に聞くことは無いであろう鈍い音が響く。

　　　え？え？え？まさ？

　その直後、警察官は簡単に離れ、力無く倒れた。「うぅ」と薄く声を漏らしている。俺の左手には少し温もりを感じる。嫌な温もりだ。

　俺たち３人は、怖くなり、急いでバイクに向かって走り、その場を後にしたのだ。　
　

　次の日、朝のニュース番組で、昨夜の出来事が報道されていた。警察官への襲撃事件として全国に知れ渡ることとなったのだ。
　それから、中井と俺とまさの３人は、その日の出来事は正当防衛だと割り切り、会うのを控えるようになっていった。

　あの警察官は病院に搬送後、重症ではあるが一命を取り留めたことが分かった。

　俺は「ほっ」と息をついた。
　左手の嫌な温もりは今も残っている。