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新不登校考㉔〜学びの多様化学校〜
AERAに「国が進める不登校支援「特例校」とは? 登校時間をずらす配慮、独自カリキュラムも実施 」https://dot.asahi.com/articles/-/251193?page=1
という記事かありました。この記事は
【要約】国の不登校支援「特例校」とは?
文部科学省の最新調査(2023年度)によると、不登校の小中学生は 34万人超 で、10年前と比べて 小学生は5倍、中学生は2.2倍 に増加している。これに対応するため、国が進める不登校支援の一つが「学びの多様化学校」(特例校) である。
◆ 「学びの多様化学校」(特例校)の概要
2005年度から開始
不登校児童生徒を対象
授業時間の削減や独自カリキュラムの実施が可能
全国に公立21校、私立14校の計35校
◆ 鎌倉市の新たな取り組み(2024年春開校予定)
鎌倉市では、不登校支援としてフリースペースの設置やフリースクール利用料補助 などを行ってきたが、新たに 「学びの多様化学校」 を開校する。
通常の中学校より授業時間を25%削減
登校時間を1時間遅らせ、遠方からの通学にも配慮
イエナプランなどオルタナティブスクールを参考
10人程度の縦割りグループでホームルーム・学活
国語・数学・英語は生徒が学習計画を立て、ICT活用
音楽・美術・技術・家庭は興味関心に応じて選択
定員は各学年10人、全校で30人程度
教員やスクールカウンセラーなど約10人が支援
◆ 開校に向けた反響と申し込み状況
説明会には定員を大幅に超える95人が参加
最終的に申し込んだのは33人
在籍校や教育委員会との面談、学校体験を経て進路決定
鎌倉市教育委員会の担当者は、対話と体験を重ねたことで、生徒が納得感を持って進路を決められたと語っている。
イエナプランとは?
イエナプラン(Jena Plan) とは、ドイツの教育学者ペーター・ペーターゼン(Peter Petersen) が1924年に提唱した教育モデルで、オランダを中心に広く実践されている。日本でも注目が高まっているオルタナティブ教育の一つである。
◆ イエナプランの特徴
学年の異なる「異年齢グループ学習」
生徒を 学年別ではなく、3~4学年の縦割りグループ に分ける。
年上の子が年下の子を助け、学び合う環境を作る。
4つの基本活動
対話(Dialogue) … 教師と生徒、生徒同士での議論・話し合い
遊び(Play) … 自由な創造活動を通じた学び
仕事(Work) … 自主的な学習や課題に取り組む時間
催し(Celebration) … 共同体の活動やイベントを通じた成長
個別最適な学び
生徒一人ひとりの学習計画を立て、個々のペースで学ぶ 。
教師は指導者というより ファシリテーター(学習支援者) の役割を果たす。
協働的な学び
プロジェクト型学習(PBL) を取り入れ、実社会につながる学びを重視。
例えば、環境問題や地域課題などをテーマに学習を進める。
評価の在り方
テスト重視ではなく、学びのプロセスを重視 。
学習の成果は ポートフォリオ(学習記録) や プレゼンテーション で示す。
◆ イエナプランの実践国
オランダ(400校以上が採用)
ドイツ、スウェーデン、フィンランド などヨーロッパ諸国
日本 では長野県佐久穂町の「大日向小学校」が代表的な実践校
◆ 鎌倉市の「学びの多様化学校」との関係
鎌倉市の特例校は イエナプランの理念を参考にし、「異年齢グループ」や「生徒主体の学習計画」 を取り入れている。
これは、不登校の児童生徒が「多様な学び方」を選べる環境を作るための工夫といえる。
この記事を土台にして以下のような論考を作成してみました。よろしければお付き合いください。
教育はどう進化するべきか?──学びの多様化と学校の役割の再定義
序章:なぜ今、学びの多様化が求められるのか
近年、日本の教育において「学びの多様化」が重要な課題として浮上している。その背景には、不登校児童生徒の急増がある。文部科学省の2023年度の調査によると、不登校の児童生徒数は34万人を超え、10年前と比較すると小学生では5倍、中学生では2.2倍に増加している(文部科学省, 2024)。この状況を踏まえ、従来の学校教育の枠組みでは対応が難しくなっており、新たな学びの形が求められている。
従来の教育では、「不登校=問題」と捉えられがちであった。しかし、現在では、不登校生徒にとって「学校に通うことが困難な理由」を考慮し、それぞれのニーズに応じた学びの場を提供することが求められている。特に、教育制度の側に十分な選択肢がないことが、不登校生徒の増加の一因ともなっている。こうした状況を受け、学びの多様化に対応する施策として、「学びの多様化学校(特例校)」「学びの多様化クラス」「校内適応教室」「校内教育支援センター」などが設けられつつある。しかし、これらの取り組みは十分に浸透しておらず、設置数の不足や教育制度の整備の遅れが課題となっている。
本論考では、日本における学びの多様化の実態を整理し、その課題を明らかにした上で、今後の展望について考察する。
第1章:学びの多様化の実態──新しい学びの形
学びの多様化とは、従来の学校教育の枠組みにとらわれず、生徒一人ひとりに最適な学習環境を提供することである。従来の学校教育は、すべての生徒が同じ時間に同じ場所で同じ内容を学ぶという仕組みであった。しかし、発達特性や心理的要因などにより、その枠組みに適応できない生徒が増えている。そこで、個別最適な学習環境を整備することが不可欠である(広島県教育委員会, 2024)。
日本における学びの多様化の取り組みとして、いくつかの具体的な事例がある。まず、「学びの多様化学校(特例校)」は、2005年度から導入された制度であり、不登校生徒を対象とする学校である。鎌倉市では、2024年度に新たな特例校を開校し、授業時間を通常の中学校より25%削減し、登校時間を1時間遅らせることで生徒の負担を軽減している。また、国語・数学・英語については、ICTを活用しながら生徒自身が学習計画を立てて進める方式を採用し、音楽・美術・技術・家庭の選択科目については、生徒の興味関心に応じたカリキュラムを導入している(AERA, 2024)。
「学びの多様化クラス」は、在籍校に設置される不登校生徒向けのクラスであり、転校することなく学びを継続できる仕組みである。これは、通常学級への復帰を目指す生徒にとって重要なステップとなる。しかし、導入されている自治体とそうでない自治体があり、全国的な普及には至っていない(文部科学省, 2024)。
さらに、校内適応教室は、学校内に設置される「居場所」としての機能を持ち、授業には参加しなくても学校に通う習慣を維持できる場となっている。しかし、学習よりも心理的な安定を重視するため、学びの継続が課題となる(市川市教育委員会, 2024)。一方、校内教育支援センターは、学校内で学習支援を提供する仕組みであり、スクールカウンセラーや専門スタッフが生徒の学習・生活を支援する。千葉県などで導入されている(千葉県教育委員会, 2024)。
第2章:高校・大学入試制度における学びの多様化への対応
学びの多様化を進めるためには、高校・大学入試制度の改革も必要である。福岡県では、「長期欠席者に配慮した入学者選抜」が導入されており、中学3年生の12月時点で欠席日数が70日以上の生徒が対象となる。この制度では、第3学年の評定を考慮せず、学力検査と面接を中心に選抜が行われている(福岡県教育委員会, 2024)。同様に、京都府では「長期欠席者特別入学者選抜」が実施され、面接や作文が重視される(京都府教育委員会, 2024)。
一方、大学入試においては、東京大学の「特色入試」や京都大学の「総合型選抜」など、筆記試験以外の評価方法を導入する大学が増えている。今後、高校入試だけでなく、大学入試においても学びの多様化を評価する仕組みの拡充が求められる。
結論:学びの多様化は教育の未来を拓く
学びの多様化は、不登校生徒の支援だけでなく、教育全体の変革に不可欠である。本論考では、具体的な制度設計や社会全体の受け入れ態勢の整備について考察した。今後は、政策面・教育現場・社会全体での連携を強化し、すべての子どもが学び続けられる環境を作ることが求められる。
参考文献
文部科学省, 「令和5年度 不登校児童生徒の調査結果」, https://www.mext.go.jp/content/20240304-mxt_jidou02-000004552_c.pdf
AERA, 「国が進める不登校支援『特例校』とは?」, https://dot.asahi.com/aera/2024030300012.html
福岡県の入試制度には驚きました。ただ、受かったあとどういう対応をしていくのか、制度設計があるのか、など疑問もつきません。様子見です。