見えざるもの②
コラム「冒頭から暴投」で2024年7月から連載中の物語です。
最新話のみを読まれた方が「意味わかんねー」とならないように、バックナンバーを読めるようにしようかと・・・。
ちなみに・・・
この物語はフォクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
それではどうぞ^^
科学的に証明された霊(複数の霊から構成される複合霊)の存在…そして、霊が分裂をしながら人々に憑依を繰り返し、それが厄災を招く原因となる・・・連日この話題でワイドショーは持ちきりだった。
そして、人々の不安が募る中、世界が動き出した。
この騒動が起こってから発足された国連主導の組織「世界亡霊機関WGO(World Ghost Organization)」がサーモグラフィーを用いた「IBT(internal body temperature)検査」で、人が霊に憑依されているかどうかを判別できる事を発表し、検査を推奨した。
それに呼応して各国の政府は、IBT検査を受けるよう国民に呼びかけ始めた。
IBT検査の仕組みは、こうだ。
霊に憑依された人は、本来身体の表面温度(通常の体温)よりも高いとされている「深部体温(体内の温度)」が部分的に低くなるという異常が見られる。その深部体温異常は脳や心臓といった特定の器官に限定できるものではなく、個人によって様々な箇所に散見され、その範囲や出現頻度もランダムなため、最低でも数分間全身の深部体温をサーモグラフィーで測定する必要があった。
ただ、本来、サーモグラフィーは対象物の表面温度を計る装置であるため、深部体温を計るのには適さない。そこで、IBT検査では、血液成分、血液温度、血圧、心拍、BMI値、体脂肪率、体格測定値など多岐にわたる個別の人体データと、サーモグラフィーで得られたデータをAIが解析し、予測・映像化するという手法で、深部体温を計測した。
IBT検査で計測された深部体温は、一般的なサーモグラフィー映像同様に、温度の高い順から赤・オレンジ・黄色・緑・青と、グラデーションで表現された。
通常は体の外側、特に指先や足先が青で表示される事が多いのだが、脳の中心部や、胴体の中心部など、本来低温になるはずのない箇所の表示が青色となった場合に、陽性(深部体温異常)と診断、それが霊に憑依された状態である事を示す…という事だった。
本来のIBT検査にはMRIも併用するとされていたが、費用が膨大であるのと、限られた病院にしかないMRIがIBT検査に占有されるとなると医療崩壊を招きかねない。そのため、一般的なIBT検査にはMRIを使わない簡易的な方法で行われる事になった。そのため、その精度の信憑性には疑問がつき纏った。
それでも日本では、瞬く間に全国の医療機関でIBT検査の体制が整備され、民間の検査場も急増した。検査1件で数万円、国から補助金が出るのだから当然の結果だった。
一方、厚生労働省は国民に対して憑依防止のため、サングラスの着用を推奨した。霊は目を媒介として憑依者から非憑依者への憑依を繰り返すため、他人と視線を合わせないようにするためとの事。
ただ、いくらサングラスをしていても、偶然視線が合ってしまう事も少なくなく、それは憑依を完全に防ぐものとはならなかった。
一部には、実際に目が合う事が要因ではなく「目が合ったという意識」だけで憑依されるのだと主張する専門家もいたが、世論はそんな声に耳を傾けなかった。
そして、メガネ屋はもちろん、コンビニや街の雑貨屋の売場から瞬く間に、サングラスが無くなった。