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《あの頃のイースト・プレス》|#01

「コミック・キュー創刊の頃」

堅田浩二(94年入社)
イースト・プレスの古参社員が思い出語りをするコーナーができました。自分が入社して早26年……といって特に感慨はないんですが、ひとつの記録として当時を振り返ってみます。

1994年の夏頃、朝日新聞の日曜朝刊に掲載されていた、イースト・プレスの募集広告を目にしました。そこに書かれた「読みたい本は自分で作る」というコピーが記憶に残っています。

当時自分は出版社をいくつか転々とした後、とある編集プロダクションで勤務していました。とはいえやはりそれに飽き足らず、まだこの世にない本を自ら手掛けていきたい、あんな本を作りたい、こんな本を作りたいという思いがあったのです。

当時イースト・プレスは荒木経惟『包茎亭日乗』や小林よしのり『異常天才図鑑』、江口寿史『江口寿史のお蔵出し』など意欲的な企画を連発していました。月刊誌「噂の眞相」によく出広していたのも目にしていたため、新興(創業は89年)ながら勢いのある版元として、もともと気にかかってはいたのです。

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そして要項には「編集(マンガ)募集」とありました。マンガ編集は未経験でしたが、マンガ自体は好きだったので早速応募、ほどなく面談となりました。面接官は創業社長である小林茂氏(現在は退任)、M部長(その後アールズ出版を創業)、編集H氏(江口寿史氏担当、現在は主夫?)だったかと。事務所は江戸川橋の床屋の2階、ボロボロの雑居ビルでめちゃめちゃ狭く、わりと不安になりました。

面接で聞いたのは、「今回は江口寿史さんの責任編集でコミック・キューというのを準備しており、その担当を募集している」ということ。コミック・キューのことはそれより前に、なにかの雑誌で江口さんが、そうした企画が進行中だと話されていたので知っていたのですが、それがこの会社で、というのはそこで初めて知ったことで、思わず声が出るほど驚いてしまいました。

江口さんご自身もそうですが、メジャー・マイナーを問わず既存の枠に収まらない独自の世界観をもった、少し前ならニューウェーブとも呼称されていたような作家さんたちが一堂に会するこの雑誌、自分はそうした作品をローティーンの頃から読みまくっていたので、まさに適任じゃんかと思い、そうアピールしまくりました。絶対に関わりたい、もし不採用でもなんらかの形で手伝わせてほしいとか言った気もします。

そしてそもそもこの「コミック・キュー」の企画は『江口寿史のお蔵出し』を編集されたH氏が江口さんにもちかけて実現したこと、そして『お蔵出し』と同様『異常天才図鑑』も、著者である江口さんや小林よしのりさんと何かコネクションがあったわけでなく、営業の人が企画立案したものであることを聞きました(その営業の方はその後編集部に配属、岡本太郎『強く生きる言葉』などベストセラーをいくつも手掛け、現在は興陽館におられます)。

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『江口寿史のお蔵出し』より

そして自分も無事採用していただいたわけですが、とはいえ採否に関しては意見が割れたと入社後に聞きました。「おもしろそうなやつだが、社会人として大丈夫なのか」というのが争点だったとか……拾っていただいて本当によかったです。

ついでに思い出しましたが、「イースト・プレス」の社名の由来を面接で尋ねたところ「この極東から世界に向けて本を発信していきたいから」と社長の小林茂氏が言われており、ほほうと思いました。そしてその由来を知っているのはいまでは社内で自分だけだった…というのも先日判明しましたので、歴史の証としてここに記しておきます。

そんなわけで10月に入社し、12月にコミック・キュー発売即大反響、社長が休日に独断で大増刷を決め営業部から非難轟々、2号表紙のヅラハミチンアトムで手塚プロ様からお叱り(その後お許しいただき6号で「手塚治虫リミックス特集」が実現するも、田中圭一作品で肩身の狭い思いをすることに)、編集H氏退社、江口寿史氏も(予定通り)3号で編集長を降り自分が跡目に、9号からいきなり100号事件、よしもとよしとも『魔法の国のルル』、地下沢中也『預言者ピッピ』のつづきはどうなったとよく聞かれる件、そもそもコミック・キュー自体つづきが出るのかどうか問題……などなどありますがそのあたりはいずれまた。

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※余談ですが、CUE COMICS(この単行本レーベルは現在も絶賛稼働中です)最新刊、『容赦ない和田ラヂヲ』は、
・コミック・キューレギュラー執筆者和田ラヂヲさまの著作
・コミック・キュー創刊編集長江口寿史さまの帯コメント
・コミック・キュー後期アートディレクション古賀学さま装丁
・コミック・キュー2代目編集長ことわたくしの編集
また関連イベント「大和田ラヂヲ展」コントリビューターの皆様の顔ぶれからしても、これはもうコミック・キューの増刊号的なものと言ってもいいのでは?という思いが芽生え、その刻印を(カバーを取った)表紙に記してあります。誰も気づいてくれませんでしたが、お持ちの方はぜひご確認ください。


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