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『夜の飛行機雲』-エッセイ風-

ある夏の夜のことだ。

夕食は素麺だった。
冷汁に麺を浸しすすれば、
紫蘇と胡麻の香りが鼻を通る。
胡瓜の水々しさに体の熱も冷やされていく。

祖父が言った。
「もうそろそろ人工衛星が見えるぞ。」

私と弟と妹は祖父と共に庭へ出る。
外は少し蒸し暑かった。
頭上を見上げ、薄暗い中に目を慣らしていく。

夜の空の深く暗い青に、小さな光がある。
こと座のベガだ。
そのうち、他の星たちの存在に気が付く。

人工衛星は北西から南に向かうらしい。

まだ、その姿は確認できない。


皆そろって夜空に目を凝らす。


私は真上に動く光を見つけた。
それは北東から南西に向かっているようだ。


興奮して皆にも教える。
「あれが人工衛星だろうか。」

そう遠くはなさそうな距離だ。

夜に映える光は儚く煌めく
彗星のように白い尾を引きながら
白い名残は軌道を描く
濃淡の青を切り開き進む

そうして
夜の向こう
星空の中に溶けていった。

その美しさに
長い間、見惚れていたように感じた。

弟が言った。
「人工衛星は北西から南に動くはずで、
大気圏の外にいるのだから、
あんなに近くはない。」

なんてことだ。

私があんなにも感動し、
心惹かれた「あれ」は
飛行機雲だったのか。

すると、今度は北西から動く光があった。
いよいよ本当の人工衛星であった。

小さなそれは
ゆったりと静かに南に向かう。
その軌道に地球の丸さを思い出す。
水平に移動するかのような衛星は
やがて南の果てに消えた。

あれが人工衛星だ。
確かにそうだろうな。

地球の周りを回るその優雅さ
静かに見守るその偉大さ
宇宙の存在を感じさせるその佇まい

うん、あれが人工衛星か。
そうか、そうか。

皆は各々感想を口にしながら
家の中に入って行く。

私の視線は南の空から頭上へとズレる。
あの優美な人工衛星を観た後も
私の心は囚われていた。

あの儚く煌く白い尾を持つ
飛行機雲に。

美しい夜の飛行機雲に。

もう一度、頭上を見上げてから
私も家の中に戻った。

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