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おじさんが悪者に仕立てられた怖い話

ええと、どうも自身は物事を斜から覗き込む性分だが、より斜から捉える映画監督はとても珍しい存在だ。
その中でもパトリス・ルコントは人間描写を鋭く描く一人だと思う。

数多くの作品の中でも、個人的に気に入っている映画は邦題「仕立て屋の恋」だ。

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物語はとても切ない。
それ以上に最も優れた点を述べると、これは個人的な感想でしかないので鵜呑みせずに。
で、この作品はラスト・シーンを描いた後に構成されていると考える。

物語の核であるラスト・シーンは映画の要でもある。
終わりよければすべてよしという言葉が示す様に、最後が締まらなければ全てが水の泡と化す。
そう、日常生活と同様なのだ。

簡単なあらすじを紹介すると、ストーカーが性悪女に睨まれて主導権を握られた悲しくもあり、滑稽な物語である。

事の発端は女性の殺害された遺体が見つかる。
刑事は周囲から陰気な性格だと称される仕立て屋を疑う。
その根拠に、過去に猥褻罪でしょっ引かれた事があるからである。
それはいくらなんでも浅はかな発想だと、刑事は反省をしたかは不明だが、仕立て屋を加害者から除外する。

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実は仕立て屋は覗き見をする事が趣味でもある。
近所に引っ越して来たアリスに一目惚れした仕立て屋は、アリスの行動を監視する様になる。

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だが、アリスは仕立て屋が思う様な初心(うぶ)な女性ではなかった。
何を隠そう、殺害された女性をアリスの恋人と一緒に手に掛けたから他ならない。
言ってみれば加害者そのものだったのだ。

アリスを観察して行くと、事実を知った仕立て屋は沈黙を通す。
この仕立て屋の初心な気持ちを弄ぶかの如く、覗かれている事を逆手に取り、仕立て屋を手中で転がすのであった。

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内心、仕立て屋は気付いていたかも知れない。
しかし、真実を外部に漏らすとアリスとの距離が遠のき、アリスを失う恐怖心と本音が交差し、沈黙を守る事を決意する。

物事はそう容易くは行かない。
事の真相が警察に近づくに連れると、強かなアリスは勝負に出る。
あろうことか、被害者の所持品を仕立て屋の部屋に隠すのであった。
そしてアリスは警察に通報し、あたかも仕立て屋がしでかした犯行だと告げる。
一瞬、仕立て屋は事実を飲み込めない状態だったが、本能からその場を立ち去る。

刑事は必死に追い続けると、仕立て屋は屋上へと追い詰められ地上に落ちてしまう。
そこで、常にアリスを監視していたのに、アリスは仕立て屋の部屋の窓で落ちて行く自分を見つめていた。

そうそう、冒頭で述べたラスト・シーンの話だが、最後に一方的な監視から解放され、互いが一瞬だけすれ違った瞬間でもあり、仕立て屋が求めていた欲求だったのかも知れない。
んな訳で、パトリス・ルコント的、恋愛像を描いたのだろうとまたもや勝手な解釈でほくそ笑む自身。

これは映画だから他人事の様に笑えるが、実際にこの様な事柄が日常に溢れていたらと考えると、人口の半分以上は消滅しそうだ。

わーお!

考え過ぎかな?…いや、ありえるから怖いよ。

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