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お遍路のスタート地点に立つまえに、旅ははじまったようだ。
徳島県神山の山の上にあるJOくんの家に僕の車を置かせてもらえることになった。焚き火で料理をする彼の日常。大きく息を吸いながら、焚き火で沸かしたお湯でコーヒーを点てながら、荷物とともに心を整えていくような感覚で過ごさせてもらった。
出発の朝も、JOくんは友だちの畑を手伝うために犬のソックスを連れて、早くに家を出た。僕が見送るかたちになった。ひとし静かな山のなかで、JOくんの家で静かに荷物を詰めながら、やっぱり多すぎて入りきらなかったものをすまんねーとケースにいれて車にしまった。
さあお礼を言ってはじめよう。
山から降りるだけでも結構だ。荷物を背負ったとたんに、ヒザが左右に揺れそうになる感覚。背中はビシッと固まってる。少し前屈みで歩きながら、これはえらいことをはじめてしまったかもしれないと思う。スタート地点に立つ前にだ。
JOくんは僕を送り届けずに出かけた。もちろん僕がお願いしていたら、いいよと送ってくれただろう。けれど彼はそれを言い出さなかった。それって愛やんなと思う。その人がその人でしっかりスイッチを入れて一歩目を踏み出すこと、そのことを自分がさえぎってはいけないと思っているんじゃないかと思う。そんな仲間がいてくれて僕は幸せものだ。
バス停までずーっと川に沿った道路を1時間ほどくだった。
背中につけた【珈琲点てます 遍路旅】の画用紙がすでにこそばゆい。
これ見てもし車が止まったらどうしよう。まだスタートラインにも立っていないのになぁ。なんて思いながら、もちろん車が止まったりすることはない。
1度荷物をおろしたいなぁ、休憩したいとなったくらいにやっとバス停についた。車でしか移動してこなかった僕にとって、バスに乗ることもすでに冒険みたいなものだ。ドキドキしながら時刻表を見たら、まだ12時回ったところなのに、2時のところにポツと数字がひとつあった。あれまー。
バスをどうやって待とうかと思ったのだけれど、旅をはじめたんだから、いつもの自分とは違う。だからヒッチハイクもやってみようと思って、よく車で立ち寄るコンビニの手前で親指を立ててヒッチハイクを試みた。
だめ
だめ
だめ
だめ(助手席の奥さまはにっこり)
だめ
だめ
だめ(ちょっとよけられる)
だめ
だめ
このくらいから、自分は笑って会釈をして車に合図を出すのだけれど、もしかしたらすごく顔がひきつっているんじゃないかと思いはじめ、情けない気持ちになる。
そうしていたら声がかかった。
前じゃなくて後ろから。
「あの!何してらっしゃるんですか!?」
日本と外国のお兄さんふたり。コンビニに止まっているバスが彼らのものみたい。
「僕たち愛媛からあのキャンピングカーでまわっていて、そして今日帰るんですけどお兄さんがヒッチハイクしているなぁと思って!」
残念ながら僕が向かいたい徳島駅とは反対方向だったのだけれど、サッとお話しながら興味を持っていただけたので、よかったらコーヒーつくりますよとお声がけしたら、
「いいんですか?そしたらお願いします!」
とキャンピングカーに招いていただけた。
車のなかでサッとコーヒーの準備をしながら、自己紹介をしたらおふたりとも、しまなみにある愛媛の島で学校の先生をされている方々だった。
移住者も多い、そしておもしろい人が集まる島だそうで、そうしておふたりも違う学校だけれど知り合って今回一緒に旅をすることに決められたそうだ。僕と同じぐらいかなぁ、少し若そうだけれど、ふたりともとっても仲が良くて楽しそう。
コーヒーをいれながら僕の旅の話や、僕も学校で子どもたちに関わっているお話をさせていただいた。彼らからは、小さな自治体の教育の枠組みのお話や、子どもたちに向き合う彼らの気持ちは大きなものだけれど、どうしても環境があることでなかなか出しきれない部分もある葛藤。それからアメリカからALTの先生として来ているお兄さんのほんとの夢。
Facebookを交換したら共通のお友だちもいて、なんとも盛り上がったところでバスの時間。珈琲道具を片付けて、また会いましょうね、と約束をして、そうして僕はバス停へと戻った。バスを待っていたはずが、バスの時間に間に合うかなと急いでバス停に戻るとき、なんだかおかしくなった。
バスに1時間以上揺られて、そうしてたどりついたJRの駅で今度は汽車に乗り換えて、1番札所霊山寺がある駅を目指す。相変わらずまわりの人がチラッと僕を見ることを意識しながら、自分がはじめてやるスタイルのしかも歩きという、自分にとって慣れないスタイルに戸惑いを感じる。まるで自分とは反対の趣味の服を着て街を歩いているような気分だ。
窓からの夕陽が美しくて、それを見つめていたら板東駅に着いた。
降りたらそこにはもう遍路の看板。寺へ続く道路標識とライン。休憩処と書かれたお店のわきのスペース。それらがあって、なんだか急に自分が許されているような、もう少し胸をはっていいような、そんな気持ちになった。
コンビニでサッと夕食を買って、お寺へ。案内所はまだ電気がついていたので入って挨拶をしたら、おばさまに声をかけられた。
「あなた徳島大学出身なの?」
はいと答えると、「あなたに会いにね、今朝ふたりぐみの男の人が来てらしたの、しばらく待っていたみたいだけれど。」
あれまーそうだったんですね。ずいぶんのろまな僕なので失礼なことをしてしまいました。僕のほうにはなんの連絡もなかったのですが。
案内所はもうすぐ閉まるし、今晩どうされるの?と聞かれて、どこかで野宿をしようと考えています。とこたえたら、「そしたらそこの屋根とベンチのところがいいわ。トイレもあるしね。よくテントはってらっしゃるかたもいらっしゃるよ」と教えてくださった。
さあ今日からはテント無しの野宿。屋根があるところが僕の寝床となる。
だんだん暗くなって寒くなるので、お茶をいれようとお湯をわかしていたら、駐車場の車が道路の手前でとまって、さっきのおばさまがいらっしゃった。
「これね。夜ごはん。ごめんねおにぎりも握ってあげたかったんだけれど、炊飯器あけたら空っぽだったの。」
とでっかいカップヌードルをお湯の入った状態で差し入れてくださった。ビニール袋も一緒に。ゴミのことも配慮して渡してくださったんだな。
お遍路がはじまるまえから、いただいてしまったお接待。どうやら遍路ははじまっていないけれど、僕の旅ははじまったようだ。
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自分が自分でいられること。
旅の日々で自分の心に浮かぶ思いや気づきを読み物として。僕の旅の生き方のなかで、読んでくださる方々の心に心地よい余白が生まれればいいなという…
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