【我が家に焙煎機がやってきた。】
無一文でスタートし、思いを交換しながらフリーコーヒーをして歩いたdailylife bicycle coffeeを終えてすぐだったころ、たしか夜行バスが早朝にどこかに着いてカフェで時間をつぶしていたときにFacebookやったかTwitterに投稿が出てきたんやと思う。まだ半年も経っていないのに忘れてしまっていることは突っ込まないで。
大坊さん。焙煎機。というキーワードを見かけて心がドキッとはねた。
これとよとみさんが言うてはったやつやんか。
徳島で学生時代からお世話になってる市内の少しはずれにあるとよとみ珈琲。昔は彼のストレートな言葉がこわかった。西川くんそんなとこ行ってだいじょうぶか!?歳いったらどうするん!?それこそ言葉をかけられるごとに心がドキッとドキッと跳ねていた。この場合はそっちじゃなくて、こうぇー!というほうに。けれど今ではとよとみさんの変わらぬ言葉にのせてある大きな愛が感じられるようになったし、自分も笑顔で言葉をかえせるようになった。これは成長したということなのだろうか。
いつだったかとよとみさんに自分でコーヒーを焙煎できるようになりたい、と話したときに「それやったら大坊さんのがええでー!あれはかっこええぞ!」
と言われてすぐに調べて見たときのことを思い出した。たしか50台だけの限定受注販売で、それはもう1年も前のことで、どうも再販されたらしいんやけどそれも終わったあとやった。そして価格にびっくりこいた。20万円。おいおい20万円!という衝撃とともに、ご縁がなかったんだなと思い心にしまった。
そして、そのカフェの朝、寝ぼけながらまた大坊、焙煎機の言葉を見かけてリンクをクリックしたときに出てきたのが「50台だけ注文を受け付けます」の文字だった。しかも受注開始が昨日から。おいおいなんだこのタイミングは!(いまおもえば冷静な判断力に欠いていたのではないかと思う。理由はもちろん夜行バスの起き明けだからだ。)そうしてそのままポチッとしてしまった。後悔はしていない。できるはずがない。焙煎機を買うのはゴールでもなんでもなく、スタートラインに立つためのことなんだから。
ついこないだ焙煎機が届いた。でっかいダンボールに入って。
すぐに開けたかったのだけれど、旅のあとの家の整理と掃除を終えて、すっかり落ち着いてからにした。ドキドキしながら、包みをあけると手で磨いて仕上げたことが分かるかっこいい焙煎機が出てきた。シリアルナンバーは130。なんかキリがええ感じで好きやん。
手元にあったコスタリカの生豆を焙煎することにした。まだ温度計もなんも準備してないけれども。まずは感覚で。屋台とか中華料理屋さんで見るようなイカツイ見た目のコンロにマッチで火をつける、ボワッと出る火は確かに中華鍋が振れそうだ。そして、そこに鉄でできた焙煎台と焙煎機を置いて、ハンドルを回して予熱をする。どれくらいしたらええんかわからへんのやけれど、やってみる。そうしてだいぶあったまったな、というタイミングで豆を試しに200g投入した。
シャカンシャカン。と小気味のいい音が鳴る。ハンドルはだいたい1分間に45回転くらいかな。いま頭で描いてみたら。鉄の焼けるような匂いと、そこに微かに豆のモワッとした匂いがまざる。まだ夏のような日差しの台所はいっきに暑くなった。いままで手のひらサイズの焙煎機でずーっとやってきたから、豆の焼ける感覚はわかるけど、時間や音やニオイはまた別の感じがして心もとない。サンプルスプーンというのか、ゴマスリ棒の先っちょにアイスをすくうスプーンのようなものが付いたやつで豆の色をみながら焙煎を進めていく。20分ちょいくらいかけたところで豆もはぜて(ぱちっとふくらんで)、焙煎機の火を落とした。
ステンレスのざるに豆をあけるとパチパチ音がしながら湯気が立つ。それとともにチャフというコーヒー豆にかぶさってて、焙煎したらはがれる薄皮もまじってる。ふたつのざるにザーッと入れかえコーヒー豆を冷やし、チャフを飛ばすと綺麗に赤っぽい濃い目の茶色に焙煎した豆が残った。嬉しい。早く飲みたい。
ガスが抜けるまでしばらく待って、早速ドリップしてみた。うん、小さな焙煎機のときよりも味わいが均一でちょっとクリアな気がする。ほんで飲んだあとの余韻がしっかり来る。うまい、というより嬉しいが先に来た。それからちょいちょい焙煎をしている。温度計を買って、豆をいれるときの炉内の温度を見たり、 焙煎時間をきっちりはかってみたりしながら。韓国への旅で少し中断となるけれど、この大坊さんの焙煎機で自分の豆を焼けるようになりたい。12月には大坊さんから直接受けられる講習会もある。ワクワクする。
一昨日だったか、韓国の旅に使うブレンドをお願いしに、とよとみさんのところに行って焙煎の報告もしてきた。ええでー!けど焙煎のことは勉強せんほうがええぞ!勉強するなよ!と言いながら珈琲関係の本が並ぶいっかくから2冊ほど開いてぼくに見せてくる。勉強しろと言っているのか、こんなものは見ずに自分のものをやれと言っているのか分からない。けれどどちらにしてもそこには愛があるなと思う。ぼくにたっぷり選択の余地を残してくれているところに。
もちろん基礎ってあるのだろうと思う。けれど研究されたお手本を見ながらもおもろいけれど、きっといつかの時代にたくさんの人がやっていた手探りの、0から1を作っていく段階を自分も体験してみたいと思う。料理だって、お茶のおてまえだって、珈琲だって、いつかの時代に誰かが繰り返した試行錯誤のうえに今があるのだ。そしてそれはYouTubeを見れば簡単に手に入る。けれどもまずは自分なりにやってみようと思う。その失敗の積み重ねが自分というものを、自分のコーヒーというものを作り上げてくれることを祈って。
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自分が自分でいられること。
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