でんきの未来 ~「でんきとクルマからの脱炭素社会のつくり方~
静岡県内の学生インタビュアーが、株式会社浜松新電力にお話を聞きにいきました。
インタビューを通して、「電力の地産地消」で地球も地域も豊かになる未来が見えてきました。
インタビュー先紹介
株式会社浜松新電力
主に浜松市内で発電した再生可能エネルギー由来の電力を市内の家庭や事業所に供給することで、電力の「地産地消」を実践している。
浜松市と地元企業が出資して設立し、利益の一部を市内の小中学校への寄付や、企業の省エネ相談などの地域貢献にあてている。
>株式会社浜松新電力
学生インタビュアー
・静岡文化芸術大学2年生1名
・浜松開誠館高等学校1年生2名
浜松市のエネルギー政策のポイント
インタビューに先立って、北村さんから浜松市のエネルギー事情やこれからの目標などをご紹介いただきました。
浜松市が出資する株式会社浜松新電力の取り組みは、市のエネルギー政策の中に位置づけられています。
浜松市内の総電力消費量は約500万MWh/年。うち1/3を家庭が消費。
電力料金は1,000億円/年以上。電力の地産地消ができれば、このお金を地域内で循環させることができる。浜松市は2013年に「浜松市エネルギービジョン」を策定し、エネルギーを賢く使うスマートコミュニティをつくることを決定。
浜松市内の再生可能エネルギーのポテンシャルを計算するとエネルギーの完全自給自足が可能。
浜松市は2050年にゼロカーボンシティを目指すことを表明し、同時に浜松市域RE100を目指すことを宣言。再生可能エネルギー、省エネ・イノベーション、森林によるCO₂吸収で2050年のゼロカーボンシティ実現を目指す。
浜松市は太陽光発電導入量日本一!
地域で発電した電力を買い取り、市民に販売する「電力の地産地消」を目指して設立されたのが株式会社浜松新電力。
化石燃料での発電では、市民が払った電力料金が海外へ出てしまうが、地域の再生可能エネルギーを使った発電なら、地域内でお金が循環する。
Q どんな雰囲気の職場ですか?
(北村さん)
私はもともと浜松市の職員で、去年の4月から浜松新電力で働いています。市役所ではエネルギー政策をずっとやってきました。
Q 市役所でのお仕事と違うところはどんなところですか??
(北村さん)
実はこちら、見ての通り職員が3人しかいません。あとはこれ以外に役員が5人います。それ以外は全部外注、15社くらいの委託事業で賄っています。
市役所の仕事との違いは、行政はつぶれることはないので、経営的な事は今ほど考えませんでした。でも今は電力市場の高騰で会社が危ういということにもなりかねないので。そういう所は非常に大きく違います。
人数が少ないので皆さんびっくりされるのですが、これにはコストカットという意味もあります。大手電力会社よりなるべく安く電力料金を設定しないと、浜松新電力に切り換えてもらえないので、企業努力の一環と言えます。
Q 地域のエネルギー自給率を上げるために行っていることを教えてください。
(北村さん)
まさに浜松新電力が顧客を拡大することが自給率向上につながると思っています。
そのため、我々は業務拡大まっしぐらと行きたいのですが、今電力市場が高騰していて、顧客を増やすということは調達電力を増やすことになり、そうすると赤字を増やすということになってしまいます。
今、ウクライナ情勢など世界情勢の地政リスクが非常に高いので、燃料高騰が収まって、業務拡大できる時期を見極めていかなければならないと思っています。
Q 日本全体で見ても市の出資する会社は珍しいと思います。浜松市が出資することのメリットを教えてください。
(北村さん)
実を言うと、浜松市は市が出資する第三セクターと言われるものに20年間お金を出してきませんでした。でも、この浜松新電力を作ることになった時には喜んでお金を出してくれました。これは、当社に浜松市のエネルギー政策を進める上での核となるような会社になって欲しいという意味だと考えています。市長もエネルギー政策に造詣が深い方です。うちが頑張らないと浜松市のエネルギー政策も進まないという考えで一生懸命取り組んでいます。
エネルギーの地産地消を進めるということは、地域の経済循環をうまく回すということになるので、それは結局浜松市のメリットになります。税収を増やすということや、住民を増やすということにつながるためです。なので、浜松の政策としても、ベクトルは同じということで出資をしてもらったというふうに思っています。
Q 日本全体で見ると、まだ化石燃料の使用が多いので、再生可能エネルギーで補えない電力をどうすればよいか知りたいです。
(北村さん)
今、浜松市は太陽光発電日本一になっています。こういった地域をどんどん増やすべきです。
2050年にはカーボンニュートラルを目指しているので、もう二酸化炭素をほとんど排出できない状況になっていきます。再生可能エネルギーはもう必要不可欠になるので、どんどん増やして行く必要があります。
各家庭の屋根に太陽光パネルを乗せてもらう、遊休地にも太陽光パネルを置く、風の強いところに風力発電を作るなど、できる限り再生可能エネルギーを増やしていく必要があると思っています。
Q 太陽光パネルの設置のほかに、私たち市民はどのように電力の地産地消に関わることができますか?
(北村さん)
やっぱり無駄な電気を使わないことです。創エネルギーはエネルギーを創ること、省エネルギーは無駄なエネルギーを使わないこと、蓄エネルギーはエネルギーを貯めて効率的に使うこと。
この3つをみんなで目指していければカーボンニュートラルの社会になっていくんじゃないかと思います。
あと、ひとつ重要なことを言い忘れました!浜松新電力と契約していただくという方法もあります。すみません、宣伝になりました(笑)。
Q これから先、人間と電気の関わりはどうなっていくと思いますか?
(北村さん)
まず今発電の3/4が火力発電という状況をなんとかしなければなりません。
重油や石炭、石油を使っている部分をとりあえずLNGに変えることで、CO₂はかなり削減できます。でもずっとLNGを使っているわけにはいかない。LNGを今度水素にするにしても、バイオマスなどの再生可能エネルギーにするにしても、必ず出口は電気になっていくわけです。電気ってやっぱり人間の生活と切り離せないものですよね。だからこそ大事に使ってもらいたいですし、将来を見据えても、電気と賢く関わっていってもらいたいと思います。
Q 今、電力の70%以上が火力発電で作られていますが、再生可能エネルギーの中で火力発電に代わる1番有望な発電方法は何ですか?
(北村さん)
国が言っているのは風力発電です。太陽光発電はある程度計画どおりに導入が進んでいますが、風力発電はまだまだ進んでいない状況です。
例えば、洋上風力発電という、海に風車を設置する方法があります。風力発電の弱点として、今まで騒音や低周波騒音、シャドウフリッカー(風車が回ると、地上で影が動くこと)などが言われていて、それで風力発電を止めているところもあるのですが、海の上ではそういう公害を排除できます。
洋上にたくさんの風力発電を置く「ウィンドファーム」を作るのが日本の国策になると思いますし、そういったものが普及していかないといけないと思います。
例えばイギリスでは風力発電は非常に盛んです。同じように、有望な再生可能エネルギーとして風力発電をどんどん普及させていけばいいと思いますが、コストをはじめ、解決しなければならない課題があります。
ちょっとマニアックなことを言うと、送電線の課題もあります。風力発電で電力ができたとしても、今の日本ではそれを送る送電線が脆弱です。
例えば東北や北海道で風力発電に適した場所があるのですが、その電力を東京の方に持って来たくても送電線が脆弱なので、それをもっと太い線に置き換えていくことが必要です。このために非常に大きなコストがかかると言われています。
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)という組織が風況マップを作っており、それによると、浜松市は非常に風況がいいといいうことがわかります。浜名湖の奥側に今10機風力発電があり、計画されているものもいくつかあります。
Q 電力の地産地消をほかの地域にも広げていくべきというお話がありましたが、そのために他の地域からの見学者を受け入れるなどの取り組みはされていますか?
(北村さん)
結構やっています。浜松新電力は、電力が自由化されてから比較的初期にできた電力会社です。そのため、全国から見学者が来られます。講演会にもよく呼ばれるので、そういったところで発表してPRに努めているところです。
国内だけではなく、韓国に講演に行ったこともあります。環境省の環境大臣会合などでもお話させていただきました。私の業務は露出を上げることだと思っているので、これからもどんどん行きたいと思っています。
Q 先ほど、地域の太陽光発電などで賄えない電力を、外から調達しなければならず、電力市場で価格が高騰すると赤字になってしまうというお話がでましたが、風力発電など、他の電源を入れることも計画をされていますか?
(北村さん)
ベースロードになるような電源がたくさんあった方が、やっぱり安定すると思います。
太陽光発電は、太陽が出ている時しか発電しませんので、それを補うような風力発電や生ごみのバイオマス発電、木質のバイオマス発電も非常に効果的かと思います。色々な電源をベストミックスで、組み合わせて持っていると、ある程度調達部分が少なくできると思っていますので、そういったところにはどんどん手を出していきたいなと思っています。
特に自分たちのところで発電する自社電源を持ちたいですね。
Q 最後に、2050年はどうなっていると思いますか?
浜松新電力は、いわば「RE100の申し子※」になっていたいです。
今市場から電力全体の20%~23%くらいを調達しています。調達している電力は、やっぱり火力発電で生まれた電力が多いわけです。その部分を極力地元で賄える再生可能エネルギーしていきたいです。地域の再生可能エネルギー100%を目指して供給させていただきたいと思っています。
今浜松市の年間電力消費量が500万MWhありますが、この内、今浜松新電力ってどのぐらいを占めていると思いますか。
今まだ1%なんですよ。できれば2050年までに、もっと100%に近いところまで進めて行きたいです。それで初めて地産地消が成り立っているということだと思いますし、浜松新電力はその中心にいたいと思っています。
地域の経済循環もそこで生まれるんじゃないかと思いますね。今、浜松市民が電力料金として支払っている年間1,000億円以上のお金が地域の中でまわるイメージです。
※RE100:Renewable Energy(再生可能エネルギー) 100%
学生たちの思う2050年
2050年にはすべての家やお店などにソーラーパネルがついているんじゃないかなと思います。
2050年は空気がきれいで過ごしやすくなると思います。原子力発電や石炭を使った発電がなくなって、全ての電力がソーラーパネルや風力発電によって作られるようになると思うからです。
コンビニよりも発電所がある暮らしです。2050年には発電所がもっと私たちの身近になっていて、町を歩いていると、コンビニよりも発電所の方が、「あ、ここでも電気作ってる!ここでも電気作ってる!」という風に、目につく暮らしになっているんじゃないかなと思います。
※「でんきとクルマからの脱炭素社会のつくり方」特設ページはこちら
※インタビューの内容、参加者の所属は2022年4月6日当時のものです。
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