10円玉のゆくえ
気まぐれに降ったりやんだりする雨のなか、娘を連れて近所の100円ショップへ向かう。
2人で傘をさして手をつなぐと、つないだ腕が濡れるのを見て「パパ、ごめんね」
いつの間にそんな気遣いが出来るようになったのか。
日々一緒に過ごしているのに、ふとした瞬間に成長を感じる。
駅を越えてお店まであと少し。
「パパ、おしっこ」
お店までもつ?駅までもどろうか?
「もどる〜」
よし。じゃあ、もどろうか。
「パパ、ごめんね」
うん。良いんだよ。
駅まで戻って、駅員さんに声をかけてトイレを借りる。
スッキリしてから駅員さんに元気よく「ありがとうっ!」
ちゃんとお礼が言えるんだね。えらいえらい。
お店について商品を選んでいると、店員さんが棚の下を棒で突いて何かを探してる。
かたわらには、小学生3、4年生くらいの男の子が心許なさそうに立っている。
なにか落としたのかな。
横目に見ながら、別の商品を探しに店内を移動する。
しばらくして戻ると、1番下の棚板を持ち上げながら、まだ探している。
隣の棚の商品をどかして、持ち上げて。
また隣の棚の商品をどかして、持ち上げて。
それでも見つからずに、「○○さん、ちょっとヘルプ」と別のスタッフさんに応援要請。
「10円玉落としちゃったみたいで、見つからないの」
なんと!少年の10円のために、そこまでしてたのか。
店員さんのその姿勢に感銘を受ける。
財布から10円玉を取り出して、落ちてましたよって差し出そうかな。
迷っているうちに、店員さんも少年もいなくなる。
店内を探索していると、先ほどの少年が大事そうに小銭を握りしめて、文房具コーナーへ向かっていく。
二度と落とさないぞ。
握った手のひらから、そんな気概を感じる。
店員さんがあんなに一生懸命探してくれたんだもんね。
娘がお友達にお手紙を書くと言うので、小さな便箋付きのメッセージカードも一緒に買う。
レジでお会計をしてもらっているときに、店員さんに声をかける。
先ほどの少年の10円玉は見つかったんですか?
「ううん。見つからなかったの。10円だからね」と困ったように笑う。
言葉から、10円をお店で立て替えてあげたことを察する。
そうでしたか。
そう答えながら、お金の価値と感謝の思いは、彼の心にしっかりと刻まれましたよ。と想いを込めて頷く。
ともすれば、いいよいいよと立て替えてしまいがちな10円玉を、大人の価値観ではなく、少年の立場で真剣に探す姿勢に、つい見落としがちな大切なことを思い出させてもらえた。
帰り道は、いつもより優しく娘の手を握る。
雨はもうやんでいた。
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