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それぞれの10年。これからの10年。

雨の日は、よく眠れる。

雨音が心音のように耳に心地良く、乾いて張りつめた空気を、優しく湿らして緩めてくれる。

雨水が踊る音を聞きながら微睡みに沈む。

もう何年も前に辞めてしまった会社の先輩のことが話題になり連絡を取ってみる。
といっても、6年前に止まったメールのやり取りを掘り起こし、メッセージを送るところから。
そもそも、このメールアドレスは生きているのだろうか。
一抹の不安を誤魔化すように「あーあーあー、テスト、テスト」と送信する。

間を置くことなく開封済みの表示とともに「生きてます」と返信。
不安はすぐに安心になり、その後は6年前の続きのようなくだらないやりとり。

報告してなかったことを思い出して伝える。
「そういえば、結婚して3歳の娘がいる。報告遅くなった」
「おせえなw」
「うん。6年遅れくらい。待たせたな(キリッ」
「くそおせーw」
この感じが懐かしい。

「オレも結婚したしな」
「え?聞いてないけど?いつ?」
「8年くらい前だな」
「え?」

6年前に連絡してた時には、すでに結婚してたとは。

5年前に立ち上げたプロジェクト。当初2名体制だったチームも、25名近くにまで育った。
順調だったはずが、新型ウイルスの影響でビジネス状況が悪化し縮小の可能性が出てきた。
自分が中心になっていちから立ち上げたこともあって、関わるメンバーも含めて思い入れがある。

だからこそ、だからこそ、縮小となった場合のことを考えると気が重くなる。

継続する業務、中止する業務、残ってもらうメンバー、異動してもらうメンバー、それぞれの意思を尊重しながらも、我慢を強いることになるかもしれない。
正解のない選択は、時間をかけて正解にしていくしかない。

あれから10年。あの日の映像を見ると胸が苦しくなる。埼玉県北部に住んでいて、外出先であの瞬間をむかえた。
その後に報道された映像は、頭の中で情報として処理することで精一杯で、感情は後回しになっていた気がする。
そしていま、結婚し娘が生まれ、家族を持った父として、あの日の映像を見ると震える。震えるのだ。

それぞれの10年。

人の数だけ、物語があり、温度があり、重みがある。
とてもじゃないが、言葉にできない。

雨の日は、よく眠れる。

雨音が心音のように耳に心地良く、乾いて張りつめた空気を、優しく湿らして緩めてくれる。


『パパァ!!起きて起きて!!』

娘に起こされる雨の降る土曜日の朝。


それぞれの10年
これまでの10年
これからの10年

さあ、また歩みはじめよう。



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