#49 「ジュエリーの訪問買取」に思うこと

私のnoteを読んでくださっている方はご存知だと思いますが、私の前職は主に「ジュエリーの買い取り」を行っている会社でした。

お客様が使用していた中古のジュエリーを買い取ってリフォームしたり、デザインはそのままに新品仕上げをして中古として販売したり、要は「お手持ちのジュエリーの駆け込み寺」的な、「ジュエリーの何でも屋さん」でした。

今は宝石のみとオリジナル・ジュエリーの通信販売がメインで、直接お客様と顔を合わせることもなく、商品開発と海外の鉱山開発に力を入れていて、なかなか生の「ジュエリーを身につけているお客様の声」を聞くことが出来なくなってしまいました。

そして今回、私がこのnoteに書き残そうと思っていることは、前職から離れて1年以上経ち、かろうじてかすかに残っている「ジュエリーの訪問買い取り」について当時思っていた感情です。(もう忘れそうだから取り急ぎ)

「宝石」や「ジュエリー」は、今でこそ若い方達もハイ・ジュエリー、カジュアル・ジュエリーそれぞれに楽しんでいる方も多くなりました。

でも一方で、「宝石買い取り」や「ジュエリー買い取り」という専門の買い取り業者を利用しようとされる方の割合的には、やはりまだ長年コレクションしてきた沢山のジュエリーや、長く歩んできた人生の中で折に触れてプレゼントされてきた宝石達を手放そうとする「高齢層のお客様」が多い印象です。

「ジュエリーの買い取り」には、来店での「店頭買い取り」、無料の梱包キットを送ってもらって返送する「宅配買い取り」、自宅に業者を呼んでの「訪問買い取り」の3種類があります。

当然この買い取りをする際に「査定をする人間」というのは、宝石専門の鑑定士でなければいけません。特に宝石やジュエリーの場合は、見た目だけではなくその「品質」まできちんと見分けられる人間でないと出来ない作業です。

※例えば金のグラムを測って、その日の相場と掛け合わせて計算するような単純なものではありません。

○宝石の品質とは・・・・

分かりやすくダイヤモンドに代表される「色」、「透明度」、「形」、「サイズ」や、総合的な「輝き」や「テリ感」、それぞれの宝石種に存在する「レア度」などなど、様々な見識が必要です。

これらを、私たち宝石鑑定士は一つ一つのジュエリーに対してルーペと必要に応じた様々な専門器材を使い、「鑑定」と「査定」を同時に行っていきます。

○店頭買い取りの場合

→専門の鑑定士がいるところは、目の前で査定してくれます。品物をバックヤードに持って行くとか、預かるなどは論外です。
("預かり"は、高額品で特殊な検査が必要になる物には行うことあり。※かなりの例外)

○郵送買い取りの場合

→電話やメールで応対してくれている人間が、鑑定士本人であるところが安心。よくある質問に「すり替えられたりしないですか?」「売却しなかったときに、ちゃんと返却してもらえますか?」「会社って、本当に存在しているんですか?」というのがありますが、それぞれに面倒くさがらず、きちんと答えてくれる業者であることが大前提。でもあまりしつこく疑うと「だったら店頭に来てください」と言われがち(笑)。電話の受け応えが信用できる感じかどうかと、Google Mapできちんと店舗があるかを確認しましょう。

そして私が今回メインで思いを語りたいのが3つ目の方法「訪問買い取り」について。

これは未だに、トラブルが無くならないですね。

私は「ジュエリー」と「宝石」に限ったカテゴリでお話ししますが、ブランドバッグや毛皮、絵画、家電製品など、訪問買い取り業は今や本当に多岐にわたります。

そして私たち宝石業界でも、こちらから働きかけるのではなく、お客様から「おうちに来てくれないかしら?」と相談されることも度々ありました。

理由は・・・

○高齢のため、外出が頻繁には出来ない。

○高額品のため、持ち歩くのが怖い。

○量が多いので、持って行くのが大変。(ジュエリーボックス○個分とか)

○遠方だから店頭には行けないし、郵送は紛失が怖い。

などなど・・・。

今私が覚えているのはこのくらいですが、意外とお客様の方から「自宅に査定に来て欲しい」というご希望は少なくありませんでした。

そして、ここからがポイント。

「宝石の正確な鑑定や査定は、一般家庭に伺っての環境下では難しい」

100歩譲って、喜平のネックレスやマリッジリングのような金属のみのものは、刻印さえ間違っていなければグラムを測るだけなので訪問買い取りで手放してしまっても良いかも知れません。

でも厳密に言うと、私たち宝石鑑定士は貴金属のみの場合でも「比重計」や「X線分析装置」を使用して、きちんと純度まで精査します。(持ち運びできない器材)

これが宝石になると、

○安定した光源(宝石専門のライトを使用。ダイヤモンドとカラーストーンでは光源を変えます)
→最も重要です。これは一般家庭の電灯とは全く異なるものです。

○10倍のルーペでは看破できない人為的処理の有無などを見分ける宝石顕微鏡。

○鑑別書が付いていない宝石の場合は、そもそもその鑑別に使用する諸々の器材(偏光器、屈折計、分光器などなど)

きちんと「宝石を鑑別・鑑定した上で査定金額を出す」という作業を行おうとすると、会社ごとゴロゴロ引っ張っていかないと無理なわけです。

なので、私がそういったご要望を受けた場合は、上記の事情を細かく説明した上で、「郵送買い取り」をお勧めする以外他に方法がありませんでした。

しかしどんなに言葉を尽くしても、「家に来てくれる業者に頼むわ」と断られることも多かったです。

今でもニュースで、たまに想定外の安い金額で買い取られる被害に遭われている方を目にします。
でもこれは、きっとほんの氷山の一角。

実際はその不当な金額に気付いていない方が圧倒的に多いと思います。

ちょっと変だなと思っても、「せっかくここまで来てくれたし、手ぶらで帰らせるのは悪いな」とか「まあ、宝石は二束三文なんてよく言うものね」なんて自分を納得させてしまうことでしょう。

・・・これが、まだ私が買い取り業をやっていれば
「そんなあなた!是非、ジュエリーの買い取りは我が社へ!」

・・・と宣伝したいところですが、現在の会社ではやっていないのでそれも出来ません。

今私に出来ることは、上記を読んで「それでもあなたは、宝石の"訪問買い取り"を希望しますか?」と問うことのみ。

もちろん、ここに書いたことは私の経験に基づく単なる「一例」です。

ただ、たった一つの事例でも知っているのと知っていないのとでは大きく違うと私は思っています。

この文章を最後まで読んでくれたあなたが、同じような場面に立たされたときにどのような選択をなさるか。

その時の検討の一助になれればいいなと、心から思います。

<募集>

宝石・ジュエリーの疑問やリフォームの不安な点、疑問点、ご質問などがございましたら記事にしてお答えいたします。お気軽にコメントで残していってください(^^)


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