#20 「ジュエリーの紛失(外出先)」に思うこと

つい先日の出来事で、未だに後悔していることがあります。

お盆休みに実家へ帰省する際、駅のトイレに寄りました。
大きな駅でトイレも広く、綺麗で、用を済ませた私は手を洗おうと洗面台に向かいました。

大きくて綺麗な鏡の下に、ぽつんと銀色の何かが置いてある。

それは、おそらく銀製で、ちょっと細工の凝った幅広のリングでした。

手に取らなくても、ある程度の年季が入った品物であることは雰囲気で伝わってくる。

「うわあ・・・。手を洗うときに外して、そのまま忘れて行っちゃったんだな・・・」

皆さんは、こういう時どうしますか?

当たり前に「駅の紛失物預かり所に届けるでしょ」って、言われてしまうかな。

実は私はこの時、とっさにどうしたら良いか分かりませんでした。

「駅員さんに届ける・・・?でも、持ち主がすぐに気づいて戻ってきたときにここに無かったら、諦めてしまうかも知れない」

届けようか、それともこのまま置いておこうか、グルグルと「どうしたらいいの・・・」考えました(とはいえ、きっと十数秒)。

私は結構、周りの目を切にしがちな人間です。
手を洗いながらそのリングを見つめつつ「どうしよう・・・」と考えているときに、後ろの鏡のところでメイク直しをしている女性の方がいらっしゃいました。

「もしあの方も気づいていて、私がここから持ち去ったら、"あ、あの人盗った”と思われてしまうかも知れない」

そんなことも考えて、
「触らないに越したことはないな。」
と判断し、そのまま何もアクションを起こさず、帰省の途に着きました。

私は依然勤めていたジュエリー会社で、買い取りやジュエリー・リフォームの相談を受けていたのですが、その際の問い合わせで「○○のトイレでこういうデザインのリングを置き忘れてしてしまったのですが、買い取りで持ち込まれてないでしょうか?」ということがよくありました。

私が勤めていたのは東京の中心地だったので、駅も様々、デパートのトイレなど場所も様々ですが、一貫して「トイレでの紛失」です。ご想像の通り、そういったお問い合わせに合致した品物の持ち込みはほとんどありません。

皮肉なことに、「大切にされているジュエリーほど紛失する」という現象が起きます。

○手を洗うときに水に濡らしたくないから外す。
○プールや海辺で、濡らしたくないから外してポーチに入れたりハンカチにくるんでバッグに入れておく。

などなどシチュエーションは様々ですが、大抵は「その時に一番大切にしている物」である事がほとんどです。
皆さんも心当たりはないでしょうか。

私も昔、友人に手作りで作ってもらったシルバーのネックレスがありました。手作りだと言うこともあり、とっても嬉しくて、肌身離さず毎日身に付けていました。ある日、たまたま汗をかいて帰宅して、いつもはそのまま外してお風呂にはいるのに、汗を拭き取るついでにティッシュにくるんだままにしてしまったのです。まあ、後は言わずもがな。気づいたときにはそのティッシュは捨ててしまっていて、ゴミ箱もゴミ袋を探しても結局出てきませんでした(気付くタイミングも遅かった・・・)。

私はその前職のお客様たちのお問い合わせを経験して、それからはジュエリーの販売時に「手を洗うときは外した方がいいですか」とか、「温泉に入るときは外した方がいいですか」と取り扱いの質問を受けるたびに、「外では絶対に外さないでください!」と言い続けていました。「絶対に、無くすから」と。

ジュエリーを普段身に付けない人は、「え?手を洗うために数十秒外すだけだよね?しかも目の前に置いてあるのに、忘れる??」と不思議に思うかも知れません。

一度、試してみてください。
忘れるんです。

人間は、数秒前のことも、目の前にある物の事も、「次にやらなければならないがある場合」はスッポリと抜け落ちます。
出先では特に、「この後どこ行こうかな」「ランチは何を食べよう」「さっきの洋服、可愛かったな」など、意外と自分が思っている以上に頭の中にある情報は多いもの。結果、十数秒前に外した、目の前のリングを忘れてしまうのです。

無くしてしまうくらいなら、多少水に濡れようが温泉に浸かろうが全然平気。「外では外さないで」と、強く、口酸っぱくお客様にはお話ししてきました。

でも意外と、私は今までその「置き去りにされたジュエリー」と遭遇することがなかった。

持ち主を失った、ぽつんと置き去りにされたそのリングと対峙したときの動揺は想像以上で、「どうしよう、どうすべき?」と、冷静な判断ができませんでした。

実家に到着し、家族にその話をしたら
「いや、普通にに届ければ良かったのに。無くした人も、普通に駅員さんに聞くでしょ」とサクッと言われて、

「いや、そうだよね・・・。」

と落ち込みました。

あのリングは、結局どうなったのか・・・。

あの後見つけてくれた方が、ちゃんと駅員さんに届けてくれていて、持ち主の方も諦めずに探してくれていたらいいなと、しみじみ思います。

使いこまれた、味のある風合いのリング。大切にされていたが故に、持ち主の手を放れてポツンと忘れ置かれているその姿。この状況は、「持ち主がそのジュエリーを心から大切にしている」という状況じゃないと、絶対に起こらないわけです。(皮肉なことに)

今でも、駅員さんにちゃんと届けないで放っておいたことを後悔しています。

皆さん、出先では何があってもジュエリー(特にリング)は外さないでください。

「私は大丈夫」

これは、絶対にないです。

あなたの大切なジュエリーに、あなたとの悲しいお別れをさせないように・・・どうか、お願いいたします。

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