#21 「ダイヤモンドが割れる」ことに思うこと
地球上で一番硬い鉱物・・・ダイヤモンド。もう、これは大抵の方がご存知だと思います。
和名「金剛石」。
これだけで、完全無欠な印象を受けますよね。
確かにダイヤモンドは、鉱物のなかでは「モース硬度10」という、硬度が10段階あるなかで最上位に位置する唯一の宝石です。
例えば次席の「モース硬度9」の宝石、ルビーやサファイやと比べて段違いに硬いのがダイヤモンド。
それは、「モース硬度8」のトパーズと「モース硬度9」のサファイアとの硬度の差に比べ、「モース硬度9」と「モース硬度10」の硬度の差は段違いに大きいのです。
わかりにくいので、その硬度の差を建物で例えると・・・
○硬度1~7くらい→一階建て、二階建て~七階建てくらいの違い
○硬度8→タワーマンション
○硬度9→東京タワー
○硬度10→富士山
なんだか、最後だけ建物ではなく我らが愛する富士山になってしまいましたが、それくらい硬度9以下の宝石とは比べものにならないくらい段違いでダイヤモンドは硬いのです。
そう、そう思っていました・・・。
あんな事を経験するまでは。
この「モース硬度」というものは、「ひっかき傷(磨耗)」に対する指標で、あくまで表面の擦過傷に対する強さの数値です。実は宝石の"耐久性”に対する指標はもう一つあり、「衝撃に対する耐久性=靱性(じんせい)」というものが存在します。実は、ダイヤモンドはこの「衝撃」に弱い。
ある日、ダイヤモンドの覆輪のリングを買い取りした私は、バックヤードでその金座からダイヤモンドを取り外すために、糸鋸でキリキリと金の台座部分を少しずつ切っていました。
(金やプラチナって、糸鋸で切れるんです。意外ですよね)
ダイヤモンドに当たらないよう、ダイヤモンドのガードル部分ぎりぎりまでそっと、そっと、キリキリと糸鋸を進めていきます。
覆輪の両サイドを攻めて・・・ポロンと取れました!
やった、無事に取れた・・・。
クロスで綺麗に金属粉をふき取り、ダイヤモンドが無事かどうかルーペで確認します。
「・・・・!?」
キューレット(ダイヤモンドの下部の、中心のとがった部分)から削れるように、パビリオン面に沿ってちょっとダイヤモンドが欠けている・・・!?
買い取ったダイヤモンドは1ctの大きめでハイグレードなもの。もちろん買い取りの際にグレーディングしているので、そんな欠けがあったら気付かないはずがありません。
「やってしまった・・・」
これは、入社して5年目くらいのことだったと思います。
幸い、その時の社長は「社員の失敗は経費」という考えの方だったので、お勉強代ということで何のお咎めもありませんでしたが、いかに「ダイヤモンドの実際の硬度と私たちの認識の乖離があるか」を思い知らされた出来事でした。ガードルにばかり気を取られて、キューレット部分に糸鋸の歯が当たっていることに気付いていなかった私のミスです。
ご存知の方もいらっしゃると思うのですが、ダイヤモンドは「ひっかき傷には強いが、衝撃に弱い」という性質があります。
"劈開(へきかい)”という、鉱物には「割れやすい方向」を持つ宝石と持たない宝石があり、ダイヤモンドはその中でも「(原石の)八面体面に対応する4方向に劈開がある(割れやすい)」宝石です。
硬すぎて削れないダイヤモンドのカット技術が進化したのは、この「劈開面」を利用されるようになってからでした。
まあ、今はレーザーなどでどんな形にでもカットができるようになりましたが、昔はこの劈開面に沿って慎重に分割し、歩留まり(石の重量)を最大限残しつつ美しさを引き出すために、数々の研究がなされたわけです。
(現代では、レーザーで馬の形や蝶々、大仏の形など自由にカットできます)
私が糸鋸で削ってしまったダイヤモンドは、その「劈開面」にちょうど糸鋸の歯が当たってしまい、わたしは金属との擦れとの感触の違いが分からなくて、そのままキシキシと削り取ってしまったのだと思います。
今思い出しても、確かに若干、金属とは違う「キリキリキリ・・キシ・・・キリキリキリ・・」という感触があったような気がします。
それから私は、怖くて石外しはあまりしなくなりました(笑)
「ダイヤモンドは何があっても割れない」
と思っていらっしゃる方、まだいるのではないでしょうか?
ひと昔前には「トンカチで叩いても割れない」なんていうデマが、まことしやかに出回っていましたよね。
実際は、粉々に砕けます。
例えば、リングをはめた指をドアに挟んだり、机の角にぶつけるだけでも、この「劈開の方向」に圧力がかかると簡単に欠けたり割れたりしてしまいます。
もちろんそれはガラスのような柔らかさや脆さではないですが、日常生活で起こり得る出来事です。
買い取りに持ち込まれるダイヤモンドで、例えばハイグレードの「VVSクラス」や「VSクラス」ということでご購入された方で欠けが生じているとき、「ダイヤモンドじゃないの!?騙された!?」とびっくりされる方がいらっしゃいますが、それはおそらく、使用時に何かしらの衝撃があったか、ダイヤモンド同士で重ねづけしてダイヤモンド同士で傷つけあっている場合です(硬度が同じもの同士は傷を付けあいます)。
どんなものでも、形ある物は「その姿を失う環境」があるものです。
ダイヤモンドといっても過信しすぎず、優しくとり扱ってあげてください(^^)
<募集>
宝石・ジュエリーの疑問やリフォームの不安な点、疑問点、ご質問などがございましたら記事にしてお答えいたします。お気軽にコメントで残していってください(^^)