#32 「黒い宝石」に思うこと

私が一番好きな宝石は、「ラブラドライト」です。

グレーのシックな地に、個体によってブルーやゴールドなどの光彩の煌めきが見える宝石で、ムーンストーンと同じ「長石(フェルドスパー)」グループの石です。

ついでに説明しますと、この「長石(フェルドスパー)」グループの石は「硬度7」と水晶と同じくらい硬い宝石なのですが、割れやすい方向「劈開(へきかい)」を持つ宝石なので、全体的に縦横無尽に走る亀裂が入っていることが少なくありません。

でも、ラブラドライトに至ってはそれすらも個性的な魅力。

亀裂と入ってもそこからパックリと割れるような弱さではないので、その亀裂の模様と表面に揺らめく幻想的な光彩の煌めきを、一緒に楽しめる宝石です。

なんだか初っ端から話がズレましたが、私が本日思いを綴りたいのは

「黒色の宝石」

について。

ラブラドライトが好きだと言いながら、私は気づいたら20代の頃からずっと身につけているのは「オニキス(黒い潜晶質の石英。ブラック・カルセドニー。漆黒の水晶の仲間)」。

着る洋服もほとんど黒なのでその繋がりなのかもしれませんが、大体「ゴールドの地金にブラック・オニキス」という組み合わせが好きです。

10代~20代前半の頃は、お値段も手頃で目にすることも多く、シルバーで製品になっていることも多い「赤いガーネット」がとても好きでした。

最初に自分で買ったのは、シルバー台に大きな赤いガーネットがついて、その周りをマーカサイト(白鉄鉱)が敷き詰めてあるスカラベのデザインの大振りなリング。指輪としてというよりもエジプトのスカラベをモチーフにしたその発想と造作が好きでした。我ながら、若いのに厳ついデザインが好きだったなあと思います。

さてさて、では「黒色の宝石」とはどんなものがあるでしょうか?

○ブラック・オニキス
○ジェット
○黒珊瑚(さんご)
○ショール(ブラック・トルマリン)
○ブラック・ダイヤモンド
○黒真珠(パール)
○ブラック・スピネル
○黒曜石(天然ガラス)
○ヘマタイト(どちらかというとシルバーブラック)

主流なところはこのくらいでしょうか。

数年前、ブラックダイヤモンドやブラックスピネルの連になったネックレスやブレスレットは流行りましたよね。普段あまり着けない男性の方でもチャレンジしやすいアイテムでした。

ここで私が注目したい「黒色の宝石」は、「ジェット」と「黒珊瑚」です。

「黒珊瑚」は、なんとなく「黒い珊瑚(さんご)のことだろうな」とお分かりになると思います。厳密に言うと、「赤珊瑚」や「モモイロ珊瑚」のように一般的に販売されている「宝石珊瑚」とは別の種類のものです。よく例えられるのは「珊瑚礁を形成するタイプの珊瑚」という言い方ですね。

(珊瑚は触手の数で、”八放珊瑚(宝石さんご)”と”六放珊瑚(珊瑚礁さんご)”に分かれます。)

黒珊瑚は「硬度3」とあまり硬い方ではないですが、研磨すると非常に艶の良い宝石になります。生物起源なので酸に弱く、真珠と同じように人間の汗や化粧品、香水などに弱い。身につけた後は、柔らかい布で優しく拭いてあげて、他の宝石にあたって傷が付かないように単独のケースで保管するのがお勧めです。

そして何故「黒珊瑚」が気になっているかというと、「表面特徴が独特だから」。
最初に宝石鑑別の道に入ったときに、10倍のルーペで表面特徴を観察したときの何ともいえない感情をたまにふと、思い出します。黒くて不透明の宝石なんて、みんな同じじゃない?と思いますよね。これが、生物起源の宝石だとだいぶ特徴を持っています。黒珊瑚は、小さく渦を巻いた指紋のようなくるくるした「節(ふし)」がたくさん見えます。もうこれで、鑑別は一発です。他の黒い宝石と混同することはまずありません。あの「うずうずした表面」がなかなかショッキングで、あの第一印象の衝撃は今でも忘れられません。宝石店であまり見かけることは多くない宝石ですが、もしミネラル・ショーなどで見かけたら店員さんにルーペを借りて、見てみてください。(トラウマになるかもですが(笑))

そして同じ生物起源の「ジェット」。木炭・・・という言い方は正しくないですね。元々は、「木」です。もしかすると、私は一番この宝石(?)に憧れがあるかもしれません。

<ジェット(黒玉)>

○何千年も前に化石化した木炭
○硬度2.5
○紀元前から加工して装飾品として扱われていたという記録がある
○元が木なので、非常に軽い(比重:1.3 琥珀よりちょっとだけ重め)

※比重とは:水1立方センチメートルあたりの同じ体積に対する物質の質量の比率。例えば、水が「比重1」だとすると、「比重3.52」のダイヤモンドは水に沈む。「比重1~1.03」コハクは、水に浮くか中間をたゆたう。

ジェットは「石炭化した木」なので、特徴として木目のようなものが確認できることがあるそうです。

「・・・そうです?」

と思ったそこのあなた!

そうなのです。この「ジェット」という宝石は、ほとんどふだんの生活では出会うことがありません。

かつてはヨーロッパで「モーニング・ジュエリー(喪に服すときに身につける宝石)」として流行った時代もありました。しかし、その人気の高さに対して供給量が圧倒的に少ない。そもそも、日本にまで入ってくるほどの十分な産出量が無いのだと考えられます。

でもそんな私でも一度だけ、宝石の買い取りでジェットに遭遇したことがあります。

見た目はブラック・オニキスのようにツヤツヤとして状態も良く、パールのネックレスのように連珠になったもの。

私はまさかジェットだとは思いもしなかったので、

「では、拝見させていただきます」

といつものようにその連珠のネックレスを手に取りました。

「えっ・・・?すごく軽い!!ま、まさか・・・?」

もちろん、プラスチックの可能性もあるので、拡大検査をします。

「こ、これは・・・まさか!?」

それが、今のところ私がたった一度、ジェットのジュエリーに触れた機会でした。

ジェットは元が木なので、年輪のような独特の「とぎれた同心円状の構造」が見られるのと、もちろんプラスチックのような一様な表面特徴ではありません。有機質の宝石なので極力「屈折率(=ここの宝石種を特定できる決定打になる。しかし、特殊な"屈折液”を使用するので有機質の宝石には避けたい)」を測ることはしたくないのですが、ジェットは、一度見たらすぐそれと分かる独特の表面特徴を有しています。

でも正直、あまりにも興奮しすぎていて覚えていません・・・。

なので、もう一度この目でその特徴を確認できるその日まで、「・・・そうです」ということにしました(笑)

同じ「黒い宝石」でも、その照りや艶、煌めきは個々で特有のもの。
そしてそれはそれぞれの宝石の起源により、成長の段階で内在された全く違った個性。
その個性の違いを、楽しめる宝石の色の一つです。

今回はちょっと思い立った「ジェット」と「黒珊瑚」について綴ってみましたが、またいつか、他の黒い宝石についても思いを綴りたいと思います。

そして今日も、わたしはブラック・オニキスと一緒です(^^)

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