#18 宝石の「人工的な処理」に思うこと
地中から生まれ出たときから色とりどりの宝石たち・・・。
初めて宝石を目にした古の人たちは、本当に驚いたことと思います。
しかし、人間は貪欲。
美しさへの追求は今もまだ、続いています。
最初はきっと、川の水で土の汚れを取って、その美しい色を眺めたことでしょう。
その次には、表面を磨くことでその艶と色を愛でていたことと思います。
そしてそのうち、カット面を付けることで煌めきを発見。
カット面の数や角度によって輝きが増すことに気づく。
さらに、石の種類によって、光の屈折度合いが異なることから美しさを最大限に引き出すカットの種類が様々に登場・・・。
今も新しい宝石種やカット技術などへの探求は続いており、地球からの贈り物である「宝石」というものの美しさを、いかに最大限引き出せるかの研究には終わりがありません。
そこで問題になってくるのが、宝石に対する「人為的な処理」です。
基本的に、宝石に施して良いとされている人間の手が加えられる行為は「カット」です。
宝石にカット面を施すことで、その宝石がもつ本来の美しさを最大限に引き出すことが私たち人間の役目。
しかし、宝石の成分や成り立ち、色の原因や輝きの秘密が解明されてくると、そこをいじりたくなるのも人間のサガ。良い意味でも悪い意味でも、探求心のなせる技が発揮されます。
宝石を見ていて、一度は「非加熱」や「無処理」、「加熱処理」、「照射処理」、「放射線処理」など、なにかしら「宝石に手が加えられている表記」を目にしたことがある方は多いと思います。(鑑別書への記載、またはお店が開示している場合)
これは、地中から生まれ出た時点で「ここがもう少しこうだったら、価値が上がる」という場合に行われる処理です。
以前は「エンハンスメント(改良)」と「トリートメント(改変)」の2種類に分けられていましたが、現在はきちんと「何の処理がされているのか」まで明記されることが多くなってきました。
○「エンハンスメント(改良)」
→潜在的にその宝石が持っている「美しくなる要素を引き出す」ために、人間がちょっとだけ手助けする方法。不可逆的な処理で、処理後の石の状態は安定しているので、ある程度、容認されている処理。
<例>
・サファイアやルビーの加熱処理→色、透明度の改善。
・アクアマリンの加熱処理→緑色を飛ばし、純粋なブルーにする。
○「トリートメント(改変)」
→自然界で起こらない科学技術で、本来の価値以上の見た目に宝石を加工する処理。経年変化でその見た目が変わることもあり、この処理をすることで価値が上がることはない(むしろ下がることがある)。
<例>
・ブルートパーズの照射処理→鮮やかなブルーに着色。
・ダイヤモンドの照射処理→様々な色のダイヤモンドにできる。
・ダイヤモンドのレーザードリルホール→内包物をレーザーで消す。
・サファイアやルビーの含浸・充填処理→存在する亀裂やヒビを隠す。
・ヒスイ、ターコイズ、ラピスラズリなどの着色処理。
などなど・・・挙げればキリがありません。
上記の内容で何となくお分かりいただけるとおり、エンハンスメントは認められていますがトリートメントはあまり好ましい処理ではありません。使用していくうちにその姿が変わってしまうこともあるので、購入の際は処理の有無を店員さんにきちんと確認して、「値段と価値が見合っているか」という点を判断することが大事です。
処理が駄目と言うことではなく、「その石の価値に見合った価格で販売されているかどうか」という点が大事です。
例えばエメラルドは「オイル含浸処理」が"一般的”です。エメラルドは宝石の中では珍しく、「処理されていることが当たり前」ということになります。しかも、「含浸処理」ということは、上記の定義だと「トリートメント(改変)」ということになってしまいますが、エメラルドは本来、内包物が多く耐久性も低いため、宝石として扱うために必要なこの「含浸処理」が、特別に「価値を著しく下げるもの」とされていません。
もちろん、エメラルドも含めて「無処理」のものは「何らかの処理がされているもの」よりも価値は高いので、必ず鑑別書を付けて「無処理である」ということを証明した上で販売されます。
ただ、宝石の処理というのは原石の段階でまとめて行われることが多く、無処理の状態で私たちの国に入ってくることは非常に珍しいのです。
私が今回お伝えしたいことは、
・宝石には「処理」がされることの認知
・「処理」の有無によって、宝石の価値は変わる
・「処理の有無」に応じた、適切な価格かどうかを判断する
という点です。
個人的には、値段が適切であればその宝石の美しさを引き出す処理はある程度認めてもよいと思います。むしろ処理によってその宝石の美しさを引き出すその技術は、人間の叡智の結晶。地球と人間との共同作業で生み出される芸術だと考えることも出来ると思います。
ただ、その「処理の有無を伝えずに高額で販売しているお店もある」ということを覚えておいていただき、宝石やジュエリーを購入する際には、店員さんに一言、「この宝石は処理されているものですか?」と尋ねていただいてもいいかも知れません。
宝石やジュエリー選びで失敗しない方法は、「信頼できるお店選び」であると昔から言われています。
信頼できるお店かどうかは初見ではもちろんわかりません。
せめて、「質問に答えられるプロのジュエラーがいるお店かどうか」を、質問で探ってみてください。
そして忘れないでいただきたいのは、「処理された宝石が悪いもの」ということではありません。自分の生活スタイルや予算に合わせて、「適切な金額で購入する」という点が最大のポイントです。
宝石を購入するときは、臆せずどんどん質問してみてくださいね。
その時のスタッフさんの対応で、だいたいそのお店の善し悪しが分かりますので・・・。
<募集>
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