#08 ジュエリーの「超音波洗浄」に思うこと
店頭で、こんな風に声をかけられたことはないでしょうか?
「ご覧いただいている間に、お着けになっているジュエリーをお掃除いたしましょうか?すぐにピカピカになりますよ~。」
とても嬉しいサービスです。
もちろん、お店側としては少しでも長くお店に足を留めていただいて、販売のチャンスにつなげる目的でお声掛けをしているのだと思います。
ただ、店員側もジュエリーは「一見で即決」できるものではないと重々承知の上。本来の目的は、どのような品物を扱っているショップなのか全体を把握していただき、店員がコミュニケーションをとることでハードルを下げ、再来店を見込み、あわよくば「あ、これ良いな」と目に留めていただけるジュエリーと出会っていただける時間をちょっとだけ、確保したいのだと思います。
お客様側としては、今使っているジュエリーが無料でピカピカにしてもらえるし、買うか買わないかは自分が決めることなので何も問題はないように感じます。
そう、「良かれ」と思ってのサービスなのですが・・・。
これが要注意なのです。
眼鏡屋さんの店先などででも、「ご自由にお使いください」とPOPが書かれて置いてある"超音波洗浄機”。そう、あのほんの数秒でめがねのレンズの曇りや油膜が綺麗に落とせるあの機械です。
サイズや精度は恐らくジュエリー用とは若干違うと思うのですが、微細な超音波振動を利用して「人間の皮脂や汚れを取り除く」という仕組みは一緒の機械。これを使用して、「ジュエリーの洗浄」を店頭で行っているジュエリーショップは少なくありません。
リモデルやジュエリーの加工・修理なども受けているジュエリーショップだったら、心配なく任せてしまってもいいと思います。
ただ、職人や専門の鑑定士がいないジュエリーショップでは、できればやめておいた方が賢明でしょう。
ジュエリーの「超音波洗浄」の手順としては、専用の洗浄剤が入った超音波洗浄機にジュエリーを入れて、数十秒~1分くらい超音波振動をかけます。この長さは付いている汚れや担当する人によってかなりばらつきがあります(経験則での感覚でやるので・・・)
この間、ジュエリー自体に何が起こっているかというと、本当に微細な振動を超高速で与え続けていることになります。
宝石種によっては(エメラルドやターコイズなど)、この微細な振動や使用する薬剤に石が負けてしまい、割れたり色がかわってしまうことがあります。まあ、これは基本中の基本で、個々をミスする宝石店は基本的にはありません。
しかし、盲点なのは"メレ落ち”なのです。
メレだけにはとどまらないのですが、このいわゆる"石落ち”には十分に気を付けなければなりません。
メインの大きな石が外れる分には、留め直しをお願いすればいい話なので大きな問題にはならないですが(それでも嫌ですけどね・・・)、メレ落ち(小さなメレダイヤが外れてしまうこと)は気づきにくいし、その場で気付けないとメレもどこかへ言ってしまうので非常に厄介です。
かつ、メレを留めるのには職人の熟練した技術が必要です。取れた場所、爪の形などによっては留め直すのに時間がかかる場合もあるので、一度外れてしまうととても面倒なことになります。
安心できる宝石店ですと、洗浄を終えた後に担当者がきちんとルーペで仕上がりをチェックして、メレ落ちや石揺れ(超音波洗浄で石が緩んでしまうことがあります)まで確認してくれます。むしろ、もし超音波洗浄をお願いすることがある場合は、この最終確認まできちんとやってくれるスタッフがいるかどうかを確認してからの方がいいです。
この業界に長くいて思うことは、意外と「店頭のスタッフはルーペを使えないことが多い」ということです。接客のスペシャリストだが宝石に関しては素人という宝石店も少なくありません(信じられないことですが)。
ましてや、メレ落ちなどのように細かなチェックとなると、ポーズでルーペを使えるくらいでは話になりません。
結論としては、宝石店の店頭で「ジュエリーの洗浄をサービスで行っていますが、いかがですか?」と声をかけられたときは、
○洗浄において安全な宝石かどうかの知識があるか?
○洗浄後のメレ落ちや石緩みのチェックまでしてくれるか?
○万が一、メレ落ちや石緩みが起きたときは直してもらえるか?
以上の3点は、最低でも確認してください。
「無料のサービスでやってくれるのに、そこまで要求するのはちょっと厚かましいのでは・・・?」
と感じたあなた!そんなことはありません。
あなたのジュエリーの所有者は、あなたです。
そのジュエリーの現状を守ってあげられるのはあなたしかいません。
そのフォローができない場合は、もうそれは「サービス」ではないのです。悲しい思いをしないためにも、どうか確認してくださいね。
実は私が以前勤めていた宝石店は、リフォームも修理も加工も行っていたので、私たちスタッフは日常的に工具や超音波洗浄機も使用していましたが、それを使用するのはあくまで「お店の品物」に限っていました。
お役様が所有者であるジュエリーに関しては、たとえその簡単な「超音波洗浄」という作業であっても、一度お預かりして、きちんとした専門の職人に依頼して行っていました(職人は常駐していなかったので、その場ではお預かりのみ)。
もしかしたら、「慎重になりすぎではないか?」とのご意見もあるかもしれないのですが、一度その形を失った宝石やジュエリーは、たとえ石が同じ種類の据え変えられても、本当の意味での前と同じジュエリーではありません。
私たち宝石を扱う宝石商や鑑定士は、そういったトラブルを少しでも無くし、お客様が悲しい思いをすることを回避できるお手伝いができるよう、努力していくべきだと思っています。
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