#37 「宝石について語る」に思うこと
私は、「文章」というものを読むのも書くのも好きです。
読むことに関しては、プロが書く小説やエッセイ、専門書に使用する言葉運びや言葉の選び方などが興味深い。
文章の専門ではない方のブログやつぶやきも、文章の巧い下手は関係なく、会ったことのないその人達の個性と人となりを想像できて楽しい。
でも、「書くこと」を自分自身で行うと考えたときに、「言葉だけで物体や空間、時の流れを伝えるのがいかに難しいか」ということに直面します。
先日、私のnoteの投稿「#28 素の宝石たちに会いに」を書いた際、「さすがに何か写真がないと伝わらないな」と思って、苦手とする下手な写真を何枚か挙げました。それはそれでいいのですが、ふと「小説家って、凄いな」と感じました。
たまに、推理小説などだと舞台となるホテルの間取りとかを冒頭で図だけ載せている作家さんもいますが、基本的には「言葉のみ」で、人の動きや舞台の空間、登場人物たちが目や耳にするあらゆることを表現している。そしてそれを読む私たちも、その「言葉のみから」自分の知識を総動員して物語をそれぞれの心の中で展開させていく・・・。
普段は当たり前にやっていることですが、いざ自分が「文章で何かを伝える側」になったときに、それがいかに特異な才能なのかということに気づかされます。
私は今、普段の仕事の中の一つとして、「宝石の撮影」と「個々の宝石の注釈を書く」ということをしています。宝石の撮影はもう本当に嫌で(下手だから)、目下奮闘中ではありますが、これに関してはもともと苦手分野だから精進あるのみと努力中で、あまり気にはしていません。
しかし、「宝石の注釈を書く」ということは、私にとっては手を抜けない、手を抜きたくない分野。「いかに分かりやすく、相手が知りたい情報を言葉にできるか」が"本当は”一番大切なポイントですよね。
例えば、ダイヤモンドはいわゆる4C(Color(色)、Clarity(透明度)、Cut(カット)、Carat(重量))という明確なグレーディング・システムがあるので、比較的それぞれの石一つ一つに対して説明を書くことはそう難しくありません。
○このくらいの色合い。
○どこそこにこんなインクルージョン(内包物)が入っている。
○カットグレードが"良い"もしくは"悪い"から、輝きがどうみえるか。
○重量(カラット数)がこうだからこのぐらいのサイズに見える。
・・・など、それぞれ明確に言語化できて、何となく書いていてもそれなりに形になった文章に見えます。
しかし、カラーストーン(ルビーやエメラルド、サファイアなどの色が付いた宝石)はそうはいきません。
いや、大まかに言うと、ダイヤモンドのグレードに沿う形で同じように説明すれば良いのですが、私がその石について伝えたいのはそういうことじゃないし、きっとこの宝石をみてお客様が知りたいポイントはそこじゃないと、どうしても行き詰まってしまいます。
例えば、使い古した言葉で言うと
○ルビー・・・血のような赤色。燃えるような情熱の色。マグマのような赤。
○サファイア・・・深海を思わせる深いブルー。夜空を思わせる神秘的な青色
○アクアマリン・・・澄み渡った青空。南の島に広がる大海原の輝きを伴った水色。
○エメラルド・・・妖精が棲んでいそうな深い森を思わせる色。森の奥の神秘的な湖のグリーン。
○ルベライト・・・鮮烈なキャンディ・カラー。瑞々しいラズベリーの色のビビッド・ピンク。
などの表現でしょうか。
しかし昔、会社で通わせてもらったキャッチコピーの訓練をするセミナーで、そこの先生に
「みんなが同じ経験をしているわけではないからね。分かりづらいよ。自己満足の表現ではいけないよ」
と言われたことをいつも思い出します。
でも、わたしは宝石を表現するときに"物理的な説明”だけで終わらせたくない。一つ一つの宝石に対して、個々の「自己紹介文(人間だったらプロフィールか履歴書みたいな感じ)」で個性を出して書きたい。でもそれは、本当に相手から求められている"分かりやすい、知りたい情報が詰まった文章”なのか?
実際は、相反したものになってしまうことがほとんどです(今の私の文章能力だと)。
いつも時間がかかって、苦労します。
この投稿を始めようと思ったときも、
「宝石の説明をする場合、分かりやすさを一番に考えると写真はマストだな」
と思っていました。
でも、小説家は「言葉だけで、全てを想像させることができている」という点も気になって、あえて
「文章だけで宝石について思いを綴っていくことにしよう」
という思いに至ったわけです。
まあ、実際には説明に使いたい宝石の画像を勝手に他サイトから引用するわけにはいかないし、自社の商品を勝手に撮影するわけにもいかないので(笑)、使用したい写真素材がないということが大きいですが・・・。
宝石が好きで、宝石と共に人生を生きてきて、そして今も宝石に囲まれて仕事もしていますが、意外と「宝石に対する所有欲」というものは無いため、持っている宝石種が限られているというのもあります。
この文章を読まれた方の中には、「小説家のような"文章のプロ"と自分を比較すること自体に無理があるのでは?」と思われた方もいらっしゃると思います。
多分そう。その通り。
私は自分を「宝石のプロでありたい」と思っていますが、「文章は素人」だと言うことも重々分かっています。
でも、私自身が自分が目指している「自分の中でのこの業界内での役割」というものがあって、それが
「宝石の良さを伝えて、初めてのジュエリーを手にする方の不安を取り除き、ジュエリーを愛してくれている人たちのサポートをする」
ということです。
あれ・・・?
本当は「写真を載せずに巧く宝石について説明をするには・・・」ということを書きたくて書き始めたのに、なにやら決意表明みたいになってしまっていますね。
ここがダメなところですね(笑)
書き出しと終わりがつながっていない。
・・・まあ(笑)、そのような感じで、これからも文章のみでゆるりと宝石に関して思ったことを綴っていきたいと思っています。
もし、私の文章を読んでくださっている方の中に「画像がないと、分かりにくいな」という方がいらっしゃった場合は、ネットで検索すると大抵どんな宝石も今は写真が出てきますので、どうか併せてお楽しみくださると嬉しいです。便利な世の中になりました(笑)
この度も、お読みいただきありがとうございました(^^)
また次回・・・
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