#17 「中古のジュエリー」に思うこと

皆さんは、「中古のジュエリー」に抵抗はありますか?

私は買い取り業、そこからクリーニングやリモデルを経て、中古のジュエリーとして販売していたこともあって、様々なご意見を耳にしてきました。

一番多いご意見が、

「念がこもっていそうで、怖い」

です。

もちろん、最初から中古のジュエリーをお求めの方からはこういうご意見は出ません。しかし、現代のネット社会で通信販売でもジュエリーという高額なアイテムが売り買いされる時代になり、興味がなくてもサイトが目に入ることで、ご質問をいただくことも多かったです。

その当時は買い取りも、買い取った後にクリーニングしたジュエリーの販売も行っていました。

写真の撮影や掲載も、もちろん自分たちで行います。

このときに一番記憶に残ったお客様からのお問い合わせは、

「石の中に女性の横顔が映っている」

というものでした。これは、冷やかしやイタズラの問い合わせではなく、当店の品揃えをいつも楽しみに見てくださっていた常連のお客様からのご指摘でした。

スタッフ総出で、掲載中の写真をチェックします。

撮影にはカメラに撮影用カバー使用しているため、撮影スタッフが映り込むことはあり得ません。

念入りにチェックしていくと・・・。

「う~ん・・・もしかしたら・・・」

そのご指摘をいただいた宝石は、非常に希少な種類で、かつ大きく、カットが通常の宝石よりも細かくたくさん施されているミックスカットのカラーストーンでした。

カット面が多いということは、それだけ光の反射も多く、その結果、カラーや輝きの陰影も撮影の角度によっては通常のカット石よりもはっきりと出ます。

「ここの影と、ここの影をつなげてみると、女性の横顔のようにも見えなくもないね・・・」

そうです。

怖がってみていると木目すら人間の顔に見えてしまうという人間の複雑な脳。宇宙に浮かんでいる惑星の点と点を繋げるだけで、ケンタウロスや竪琴が想像できてしまう人間の優秀な脳。それにかかると、宝石をアップで撮影したカット面からの輝きの反射の像などは、あらゆるものに見えてしまうのです。

ましてや、そのアイテムは以前誰かが使用していた「中古のジュエリー」。役者は揃っていますよね。

実際、有名どころでいうとアメリカのスミソニアン博物館に展示されている「ホープ・ダイヤモンド」(濃いサファイアブルーの45.5ctのダイヤモンド)にまつわる呪いの話はどの世代の方も一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?

でもこれらの持ち主に起こった事件は、冷静に考えると「富を横取りしようとする人間同士の争い」に起因する殺人事件だったり盗難事件だったりするので、実際には"宝石は無実”です。

でもやはり、人というのはドラマティックなものや人智を越えた物事に惹かれるもの。とくに「宝石」というものは、一般的にはやはりその美しさや地球が生み出す不思議から畏怖されることも多く、私たち人間にとっては神秘性と切っても切れない存在です。

何か普段と違う行動をとったり、チャレンジしたりして自分の思うとおりにいかなかったときに、「最近買った、このジュエリーのせいかも・・・」と思ってしまう人はそう少なくないのです。(同じ高額品でも、車やブランドバッグには思わないですよね。)

新品の宝石にさえ、美しさへの畏怖から神秘的な力を期待しがちなのに、それが「中古のジュエリー」となると”前の持ち主の負のパワーが残っているのでは?”と思ってしまうのは当然のことです。

前置きが長くなってしまいましたが、結論をいいます。

「宝石にはそこまでの力はありません」

美しく輝く宝石やジュエリーを持つことで、自然とウキウキしていつもより笑顔が多くなったり、身に付けてお出かけしたいと思うことで行動的になったり社交的になったり、間接的にはジュエリーは私たちにプラスの影響を与えてくれます。でもそれは、「そのジュエリーに心を動かされた自分の気持ちと行動があったからこそ」。宝石がレーザーや念を発して、私たちを動かしているわけではありません。

宝石に限らず、「モノは記憶する」と言われます。

前の持ち主の思い出が刻まれるということですね。もちろん、それを期待するから、例えば有名人が身に付けていたものを競売にかけるとか、サインをしてどちらかに寄贈するとかということに夢が見られるわけですが、あくまでそれは「モノが記憶した記憶が存在する」というだけで、それが私たちに何かを働きかけるパワーを持つものものではありません。その「モノの記憶の価値」が何なのか知っている持ち主が持ってこそ、初めて価値が生まれるもので、モノ自体が何かを仕掛けてくるものではないのです。

「中古のジュエリー」に話を戻しますと、宝石は「持ち主を選ぶ」と昔から言われています(上記と矛盾していると怒られそうですが・・・)。

例えば、私たちが自分で持っているジュエリーに対して「もう使わないから、売っちゃおうかな・・・」と思ったときは、その宝石もその持ち主から離れたがっているとき。そして、次に必要としてくれている持ち主のところに行きたがっているときです。

そして、売られた宝石は中古のジュエリーショップやアンティークショップなどに並びます。もしあなたが中古のジュエリーショップで惹かれるジュエリーと出会うようなことがあれば、それはあなたがその宝石を必要としていると同時に、その宝石もあなたのもとへ行きたいと思っているという相思相愛の状態です。

前の持ち主の元での役目を終えて、時代、国、世代を越えて、新たな持ち主の元へやってきた「必然のジュエリー」たちなのです。

なんだか変なスピリチュアルチックな話になってしまいましたが・・・。

要は、中古のジュエリーは「メリットはあってもデメリットはない」ということです。

劣化が進んだ宝石やジュエリーは、中古で扱うことが出来ません。リカットやリポリッシュ、リモデルに耐えられないので、中古で扱われる宝石は必然的に「状態が良いもの」「耐久性のあるもの」に限られており、新品で販売されているものよりも厳密なチェックが行われているものが多く、強く、綺麗なものが多いです。また、すでに閉山した鉱山から採掘された宝石や、もう採れないレアな宝石種が使用されたものもあったりするので、「中古のジュエリー」という市場はあ宝石マニアにとっては避けて通れない、見逃せないマーケットだといえると思います。

良い意味でも悪い意味でも、あまり過度な期待をジュエリーや宝石に求めない。それが、貴重なジュエリーとの出会いを逃さないためのポイントかも知れません。「綺麗!」と思ったら、その心の声に是非、従ってくださいね。

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