#38 「シトリン(黄水晶) 11月の誕生石」に思うこと

私は昔から"文系”の人間なので、"理系”に関わることは基本的に苦手です。

しかし、宝石の鑑別や鑑定に関わる際には、どうしても"物理学的”な要素から逃げることができません。

他の宝石の"色の原因”でも言えることなのですが、私が宝石の勉強を始めた頃に一番印象的だった「シトリン(水晶の黄色い変種)」について、今日は思ったことを綴っていきたいと思います。

シトリン(黄水晶)は、先日書いたトパーズと同様、「11月の誕生石」でもあります。
「水晶」なので、比較的安価で手に入りやすいのかなと思われる方もいらっしゃると思います。

実は、"無処理の"シトリン(黄水晶)はかなり貴重。

市場に出ている9割方は、「アメシスト(紫色の水晶)」を"加熱処理"して色を変化させたものだと言われています。

シトリン(黄水晶)もアメシスト(紫水晶)も、その色の原因は微量に含まれる不純物である「Fe(鉄)」。

同じ色因の元素が入っていても、結晶構造が違えば現れる色は異なります(例えば同じ「Cr(クロム)」でも、ルビーは赤色でエメラルドは緑色になる)。

でも、シトリンとアメシストはどちらも「水晶」。
そして、色の原因となる元素はどちらも「Fe(鉄)」。

では、どうして色が異なるかというと、この「鉄イオン」の「電荷(+と-)」の数が異なることで、黄色か紫かの現れる色が変わります。

※"電荷"とは・・・物質を形作る原子が帯びている、電気の量。

なんか、むかし学校の化学の授業で、元素記号と一緒に「2+」とか、「1-」とか習った気がしませんか・・・?

そう、うっすらと・・・。

私は宝石の勉強を始めたときにこの部分で、本当に目眩がしました。
「思っていたのと違うぞ・・・」と。
無知って怖いですね(笑)

さて、シトリンとアメシストの話に戻りますと、圧倒的にアメシストの方が産出量が多いです。皆さんも、鍾乳洞のお土産屋さんやミネラルショーのような鉱物の展示会で大きな晶洞(ジオード。石を割った中が空洞になっていて、そこに結晶が群生しているもの)などを見かけるときは大抵、アメシスト(紫水晶)ではないでしょうか。

アメシストは、加熱処理することで電荷が変化し、シトリンの"黄色”にその姿を変えます。(どちらかが電荷3+でもう片方が2+だったと思うのですが・・・はっきり覚えていません。すいません。加熱により、この電荷が変化して色が変わります。)

しかし、全てのアメシストが加熱すれば黄色のシトリンになるわけではないようで、最近では「グリーン・アメシスト」という名前で淡い緑色(若草色)のものも人気があるようです。(これも加熱処理ですが、そもそももう"アメシスト”ではないような・・・。グリーン・クォーツとも区別されているようです。ややこしい)

宝石は地中で成長する際に、多少の差はあれど「高温高圧」の環境にいるわけですが、その環境によって原子の帯びる電荷の数が異なり、同じ「Fe(鉄)」イオンを持ちながら、違った姿で産出するのですね。
そして、シトリンは圧倒的にその産出量自体が少ない。

現実にはシトリンの場合、鑑別機関でも「無処理か加熱処理か」までを判断するのは今の段階では難しいと耳にします。
よほど「非加熱/無処理」の鑑別書がついている物でない限り、基本的にはシトリンは「加熱処理されたもの」だと思っておいたほうが安心です。

一つ、アメシストの痕跡を残した加熱されたシトリンの、面白いインクルージョンがあります。

それは、天然のアメシストにだけ存在する特徴の「ゼブラ・ストライプ(もしくはタイガー・ストライプ)」と呼ばれる、その名の通りシマウマもしくは虎の毛並みのような、さざ波のたった縞模様の液体インクルージョンの存在です。これは加熱処理をしても残るので、たまに加熱処理されたシトリンの中にも見られることがあります。
これがあると「加熱したアメシスト」の証拠になりますが、そこは宝石と人間が融合した"面白味”として、楽しんでいきたいところです。
(必ず含まれるものではないので、見つけたらラッキーだと私は思っています(^^))

同じ11月の誕生石ですが、希少性の高い「インペリアル・トパーズ」よりも、もしかしたら「非加熱のシトリン(黄水晶)」と遭遇する機会の方が貴重かもしれません。

あなたはどちらの宝石の方が好きですか(^^)

<シトリン(黄水晶)の特徴>
・硬度: 7(程々に磨耗に強く、衝撃にも程々に強い)
・多くの非加熱シトリンは"すっきりと明るめのイエロー、加熱のシトリンは若干濃いめで赤みを帯びたイエロー

<募集>

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